第26話 空を見上げて

『うん、色々あってすっごく疲れたから、お散歩に行こうかな。』

『シオリ・・・爽やかな感情と一緒に、とても大きな疲労が見えるわ。複雑な状態なのね。』

『そうだね・・・疲れが八割ってところかな。』

喫茶店を出て、うららさんとも別れの挨拶をして一人・・・いや、ルルと思念さんも一緒だけど、少し伸びをする。


うららさんと話していた時間は、そこまで長くはなかったとは思うけど、緊張と圧のある笑顔で私のメンタルはぼろぼろだよ・・・

あまりに危なっかしい様子なのを心配して、私が力を持つ人と接する時の、練習みたいなことをしてくれたのは分かるけれど。


それでも、時間はまだ日曜の日中。疲れた心を癒すなら、緑やお花のある場所を散歩しよう! というわけで、しばらくバスに乗って大きな公園へ。ルルと出会う前から何度も足を運んでいる、私のお気に入りの場所だ。


『なるほど、景色は悪くないのね。やっぱり人間は多いけれど。』

『あはは、お休みの日の午後だし、仕方ないかな・・・』

せっかくだから、ルルも外に出たほうが良いんじゃないかと思ったけれど、周りに人が多すぎることの疲れが先に来るようだ。こればかりはどうしようもないよね。


『うん! まずはベンチに座って、心地よい風に吹かれて、向こうのお花でも眺めながらぼうっとしよう。』

『シオリ・・・学校でよく話しているあの人間が、今のあなたを見たら何と言うかしら。』


『そうだね、梢ちゃんとばったり会ったら・・・体力つける気あるの? って笑顔で言われそうかな・・・いや、お散歩もするつもりではいるんだよ、少し休んだ後に。』

『ええ、最近のあなたを見ていると、そうしたほうが良い気がするのよね。』

少し心配そうな声を、私にかけてくるルル・・・お母さん属性でも付いたのかな?




『うん! やっぱりこういう場所をお散歩するのは気持ちいい!』

それからしばらく・・・ううん、少しだけ経って、有言実行の私は公園を歩き始める!

季節によって景色は少しずつ変わるけれど、やっぱり青空や緑の葉、そしてお花を見るのが私は好きだ。


『ふうん、本当に歩き回るつもりだったのね。人間の数にも慣れてきたし、私も外に出ようかしら。』

『うん、それがいいと思う!』

『ああ、今の私がどの程度見えるかは分からないけれど、姿は隠さないとね。』

そう言って、ルルが私の中から出てくる。


学校ではもちろん、うららさんと会っている時もずっと中にいたから、外で姿を見るのは珍しいほうかな。

向こうの世界では、もちろん外にいたんだろうし、こちらの空気も肌で感じてもらえたらな・・・と少し思う。


「あっ、それじゃあ私も力を使って・・・うん、ルルがちゃんと光に包まれてるのが分かるよ。」

「ふふっ、確認ありがとう。まあ、こんなことでしくじるつもりはないけどね。」

「あはは、私はよく失敗するから、ちょっとばかり心配性なんだよ。」

こんな何気ない会話だって、ルルが隣にいるだけで楽しいんだなって、実感しているよ。


「うん、ルルにもらった力でお花や緑を見ると、世界にはもっとたくさんの色があるんだなって分かるよ。」

「ふふっ、それなら良かったわ。」

中には少し元気がない子もいるけれど、満開の花はその香りや、生きてるってことそのものを、周りにいっぱいに広げているようで、その一部は空にまで・・・・・・


「あれ・・・? ルル、上のほうを何か通らなかった?」

「・・・・・・いいえ、私には見えなかったわ。空を飛ぶ生き物ではなくて?」


「うーん・・・どちらかというと、ルルにもらった力で視えてた気がするんだよなあ・・・」

「ふうん。これだけ緑や花がある場所だし、妖精の一人でもいたのかもしれないわね。」


「妖精・・・!? それなら尚更、ルルには分かるんじゃないの?」

「さあ、どうかしらね。私は一度消えかけてるし、此所とは異なる世界から来たのだもの。」


「あっ・・・! そうだよね。ごめん、ルル。」

「ふふっ、気にしなくてもいいのよ。」

『まだ、話すのは早いかしら・・・』


「ん? ルル、何か言った?」

「いいえ、口を開いていないわよ。」

「そ、そっか・・・気のせいかな。」


何かが聞こえたようにも感じたけれど、まあいいか。今日はもうしばらく、ルルとのお散歩を楽しむことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る