第24話 痛みを抱いて

『うららさん、そろそろお祓いを始めてる頃かなあ・・・』

初めて会った日に連れられて行った、学校近くの喫茶店で向かい合わせの席を確保し、心の中でつぶやく。


今日は日曜日、依頼をした先生達も立ち会う中でお祓いをすると聞いている。もし私も見たければ、学校側に掛け合ってもいいと言ってくれたけど、丁重にお断りした。ルルにどんな影響があるか分からないからね。


『・・・どうやら、始まったようね。私はあまり近付きたくないものを感じるわ。シオリの中にいれば、大丈夫なのかもしれないけれど。』

『そっか・・・念のために、うららさんの神社にも今は行かないようにするね。』

異世界生まれの妖精というのが、お祓いや神社にどう判定されるのか分からないけれど、少なくとも相性は良くなさそうだ。

本当は挨拶の一つでもしたほうが良いのかもしれないけど、ルルを危険に晒したくはないもんね。そもそも、うららさんだって私を『珍しいものに憑かれている』と言っただけで、それが妖精だなんて認識していない様子だし・・・


『うまく行くといいけどなあ・・・』

『それは大丈夫だと思うわ。あの人間、強い力を持っていそうだもの。』


『そうだよね・・・昨日は無事に成功したって連絡も来たし。』

梢ちゃんに黒い感情を向けて、思念さんを刺激してしまったあの子については、昨日のうちに個人面談のような形で、事情を聞きつつお祓いをしてきたらしい。

その後はすっかり落ち着いた様子で、みんなに謝りたいと言っていたそうだから、明日からは梢ちゃんについての心配も無くなるのだろう。


『まあ、しばらくは待つしかないかあ・・・』

『ええ。ここの紅茶の香りを楽しみながら、過ごすのも良いと思うわ。もう一つ多くの人間が飲んでいる、コーヒーというのはよく分からないけれど。』


『あはは、あれは好みが分かれるって聞くからなあ。』

前に大人の階段を上ろうとブラックを試してみたら、自分の想定を越えた苦さで、半泣きになりながらシロップとミルクを取りにいったのは私です・・・


それはそうと、お祓いだってすぐに終わるわけではないだろうし、依頼者である先生達との話もありそうだから、しばらくは喫茶店で休憩だ。

ルルがこのお店の紅茶も好きだと言うのなら、茶葉を買って帰るのも良いのかな・・・


『シオリ、何を考えているか分かる気がするけれど、私はあなたの親が置いていった紅茶も大好きよ。無理に種類を増やす必要なんてないわ。』

『分かった! ありがとう、ルル!』

うん。このところ緊迫した時間が多かった気がするから、こうしてルルと話しながら時間を過ごしていると、ほっとした気持ちになる。私と繋がっているということを抜きにしても、もう家族だと思ってもいいかな?



『あっ、うららさんから連絡だ。もう少しでここに着くって!』

そうしてしばらく待っていると、私の携帯電話に連絡。思念さんがどうなったのか、結果を聞かなければ・・・!


「待たせたわね。」

「い、いえ・・・」

それから間もなく、喫茶店のドアが開く音がして、すぐに私を見付けてやって来るうららさん。こうして向かい合うと、緊張してしまうのは変わらない。


「まず、結論から言えば、詩織さんに話していた対処は無事に終わったわ。あの体育倉庫の中は、綺麗になっているわよ。」

「は、はい・・・!」

その先が気になって仕方ない顔をしているだろう、私に笑みが向けられると、小さな箱の中から出てきたのは、きらりと光る宝石だった。


「そしてこれが、例の思念を封じ込めた水晶よ。持ち運びしやすいようにしておいたから、責任をもって管理しなさい。」

「わ、分かりました。ありがとうございます!」

私の話を聞いた上で、うららさんが考えてくれた方法は、霊的な存在や力を込められるものを用意し、そこに思念さんを移した上で、学校のお祓いはちゃんと実行すること。これなら先生達からの依頼にも応えた上で、思念さんを助けることも出来る。


「えっと・・・思念さん、窮屈だったらごめんなさい。これから安心して暮らせるお家を用意してみました。私も一緒にいるので、よろしくお願いします。」

触れてみれば、あの場所にいた時と変わらぬ気配。私の思いを伝えてみれば、びりびりとした痛みも返ってくる。うん、大丈夫。



「ふうん。それが妖精の力ということかしら?」

「は、はい・・・! ・・・あれっ?」

笑みを浮かべたまま尋ねてくる、うららさんにうなずいたところで、私の頭に違和感がよぎった。


『シオリ、気付きなさい。あなたは誘導されたのよ。』

『ええええええっ!!』

ルルの呆れたような声が頭に響いて、私は心の中で絶叫し、机に突っ伏した。


「ちょっと、顔を上げなさい。これで私があなたの敵だったら、どうするつもりなの?」

「・・・無条件降伏で許してくれますか?」

「戦意の欠片も無いのね・・・」

うららさんが呆れたような表情でこちらを見ている。きっと、ルルの姿も見える状態だったら、同じような顔をしているんだろうなあ・・・


「それはさておき、詩織さんが動揺したり、からかわれる程度の刺激では、思念は反応しないみたいね。日常生活のレベルでは安全と言って良いかしら。」

「私、実験台にされてたんですか・・・!?」

うん、別の意味で心が痛くなってきたよ・・・ところで、うららさんはどうして妖精のことを知っているんだろう・・・?

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