第23話 交渉と責任

「え、ええと、うららさんでしたよね。何からお話すればよろしいでしょうか。」

私が通う高校からお祓いの依頼を受けてやって来た、少しだけ年上らしい女の子・・・うららさんに連れられて、近くの喫茶店へ。


既にルルの存在はバレているようだし、そのルルが初めて彼女を見た時から、危ないと言い続けていることもあって、私の心は恐怖でいっぱいだよ・・・

レベル2くらいでラスボスの前に立つのは、こんな気分なのかな。


「そこまで怯えられても困るけれど・・・さっきも言った通り、あの学校で何が起きているのか、分かることがあれば聞かせてほしいの。

 私が何のために来ているかは知っているでしょうけど、闇雲に祓おうとしても問題が解決するかは分からないわ。依頼者の先生方は霊的なものが見えないようだけど、あなたは違うわよね?」

「は、はい・・・」

あっ、ちゃんとお祓いをするための質問だった。恐いのは変わらないけど、ちょっと安心・・・


「ああ、結界で周りの人達には聞こえないようにしてるから、何を話しても大丈夫よ。ここで得た情報も、今回のお祓いの準備以外で使うことはないわ。」

「ひゃ、ひゃい・・・」

またさらっと何かされてるう・・・!? 話すのはいいけど、機嫌を損ねたら一瞬のうちに消し飛ばされるとかないよね?


『しっかりしなさい、シオリ! ここで何も話さなければ怪しまれるし、そもそもあなたはこの人間に伝えたいことがあったんじゃないの!?』

『そ、そうだよね。ありがとう、ルル・・・!』

萎縮して何も喋れなくなりそうだったところを、ルルの言葉に助けられる。そうだ、体育倉庫の思念さんについて、ちゃんと説明しなくちゃ!


「ええと、まずは一昨日の体育の授業でのことなんですけど・・・」

こういう話が上手くない自覚はあるけれど、出来るだけ丁寧に、順を追って説明して・・・あっ、でもルルが妖精だということや、一人で行動していた時のことは、やっぱり伏せておこう。


「・・・それで、大きな声が聞こえて近付いてみたら、あの子に黒いものが絡み付いていたんです。」

「なるほど。扉の奥にいる気配については、私も学校を調べている時に感じたわ。その生徒が元々怒りにとらわれていたところに、それが反応してしまったように見えたわけね。」

「は、はい・・・」


「そうなると、正気を失った生徒も何かに憑かれていた可能性があるわね。まずはその子と直接会って、祓うのが良さそうだわ。」

「そ、そうですよね・・・!」

これはもしや、思念さん救済ルートが解放できたのでは・・・?


「もちろん体育倉庫のほうも、念入りに対処が必要でしょうけどね。」

「ひうっ・・・!」

そんな私の期待は、数秒のうちに脆くも砕かれた。い、いや、まだあきらめてはいけない。ずっと考えていたことを伝えなければ・・・!



「そ、その・・・あの思念さんは、周りの人達が変に刺激しない限り、暴れることは無いと思うんですけど、祓わずに済ませることは出来ませんか?」

「・・・へえ、面白いことを言い出すじゃない。」

「ひいいっ!!」

こ、恐い! うららさんが私達を消し飛ばせそうな笑みでこちらを見ている。


「詩織さんは、その思念を守りたいようだけど、発端となった生徒の行動はともかく、既に実害が出ているのは理解できるかしら?」

「ひゃ、ひゃいっ・・・!」


「あなたの言う通り、人を攻撃するのは悪意のような刺激が原因だとして、発動の条件は十分に確かめられているの? 今回のような生徒があの扉に近付かないよう、管理することは出来るの?」

「・・・・・・で、出来てないです・・・そして出来ないです・・」


「それでは話にならないわね。私は今回のような事件が起きないよう依頼されて来たのだけれど、とても解決しただなんて言えないわ。」

「ううう・・・でも、前にあの思念さんに挨拶したら、すごく痛そうだったんです。痛みを振り撒くのが許せないだけだと思うんです。そんな人の思いを消してしまうなんて・・・」


「楽にしてあげる、という考え方は?」

「・・・っ!!」

うららさんの言葉が、私の胸に突き刺さる。でも、でも・・・!


「そ、それもあるかもしれませんけど、こっちで勝手に決めてしまうのは、良くないと思います。」

「ふうん・・・思ったよりも折れないのね。一つ聞くけれど、その思念をあなたの制御下に置けるとしたら、責任は持てる?」


「・・・も、持ちます! もし、どうしてもだめだと分かったら、私がうららさんに依頼して、お祓いしてもらいます・・・!」

ここだけは絶対に引いてはいけない気がして、勢いのままに今日一番強い声で、私は言った。


「そう・・・そこまで言うのなら、考えてみても良いわ。その分の対応費は詩織さんに請求することで良いのかしら?」

「は、はいっ・・・!」

うう、ちょっと恐いけど、いざとなったら節約するよ! ルルの分は誤差だし、私が少し我慢すればいいだけ・・・!


「それじゃあ、詩織さんの要望をもとに案を出すわ。連絡先を交換しましょうか。」

「よ、よろしくお願いします!」


『シオリ・・・これってあなたがこの人間からずっと逃れられなくなる一歩目じゃないわよね?』

『恐いこと言わないで、ルル・・・!?』

うん、もう引き返せない・・・じゃなくて引き返さない。私はこれからの決意を固めて、うららさんと連絡先を交換した。

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