第22話 連行

『ルル。あの人に対してどう行動するか、授業の間ずっと考えてたんだけど・・・』

『シオリ、あなたねえ・・・私は妖精ではあるけれど、もう一度学校の意味を問いましょうか?』

『それは言わないでえ・・・!!』

授業も半分くらい聞きながら、私がそんなに良くはないと自覚する頭で、必死に考えた対処法をルルに話してみる。


『まず、ルルはあの人のことをすごく警戒しているけど、私は今朝話しかけられて、職員室まで案内してきたけど、今のところ何も言われてないよね?』

『まあ・・・それはそうね。』


『だから、ルルの力で何か視たりせずに、普通に話したりするだけなら、大丈夫だと思うんだ。』

『・・・現状は、そうかもしれないわね。』


『だったら、思念さんに友達が助けられたのを偶然見たって話にして、何とか完全には消し飛ばさないことに出来ないか、相談してみるのは・・・』

『この場所には、虫が火に飛び込む習性をもとにした、比喩の言葉があるんだったかしら。』

『何を言いたいのかな、ルル・・・うわあああん!』

うん、ばっさりと切り捨てられたのは、大体分かったよ・・・


『まあ、シオリがどうしてもと言うのなら私は止めないけれど、力を使うこと自体が危険だから、助けられないわよ?』

『そ、そうだよね。もし問い詰められた時は、この国に伝わる土下座ってやつで、命乞いをしてみせるよ・・・!』

『あなたも上手くいかないほうに気持ちが傾いてるじゃない・・・!』

うん、恐くなったら逃げ腰になるのが私だよ・・・でも、何も出来ないまま思念さんがいなくなっちゃうのは嫌だから、少しでもあがいてみよう!



『とはいえ、まずはあの人がどこにいるのか、探さないといけないよね。』

『シオリ、あなた計画性って言葉を知ってるかしら?』


『ルル、結構この世界の言葉を覚えてきたよね・・・? うん、知ってはいるけど、それを実践できるかは別なんだよ・・・』

まあ、情報なんて梢ちゃんから聞いた噂話くらいしか無いんだから、仕方ない。

お祓いのために来たんだったら、思念さんのいる体育倉庫近くか、職員室にいたりするのかな。まずは行ってみよう・・・


『・・・! シオリ。さっきの人間らしき大きな気配を感じるわ。ここからすると、左のほう。』

『えっ・・・! 行ってみる。』

ぱたぱたとそちらに向かってみれば、少し先のほうに見覚えのある後ろ姿。こちらに背を向けたまま、体育館の裏手のほう・・・掃除当番でもなければ、まず行かないようなところへ進んでゆく。


『シオリ。あの人間はこんなところに用事があるの?』

『ど、どうかな・・・? お祓いに来たんだし、あちこち見て回ってるのかも。』

ちょっと気になるけれど、ここまで来て引き返すわけにはいかない。追いかける背中が角を曲がった。見失わないよう、少しだけ足を早めて・・・


「今朝はありがとう。何か用事みたいね?」

「ふえええっ!?」

私も角を曲がった瞬間、目に飛び込んできたのは、こちらを向いてにっこりと微笑む、追いかけていたその人だった。


『シオリ、囲まれたわ! 何かの術で、この人間と私達の周囲が取り巻かれてる!』

『えっ? 私には何も見えないよ・・・!?』


「・・・やっぱり、とても珍しいものが憑いているみたいね。今朝話しかけて正解だったわ。」

「ええええええっ・・・!?」

最初からルルのこと、バレてたあ・・・!?


「ああ、何も聞かずに手荒なことをするつもりは無いわ。ただ、この学校に居るものについて、知っていることがあれば教えてほしいの。

 こんな場所で立ち話もなんだから、あなたも帰宅する準備を整えて、三十分後に校門の前に集合でどう? お茶くらいなら奢るわよ。」

「ひゃ、ひゃい・・・」


「一応言っておくけれど、逃げたら承知しないからね。もし拒否したいのなら、自力でこの結界を破って行くと良いわ。」

「絶対に、無理です・・・」

これって有無を言わせない事情聴取的なやつだよね・・・? なんだか凄みを感じるようになった笑顔を前に、私は逃げるなんて出来るはずもなく、三十分後に無事連行されていったのだった・・・

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