第21話 訪問者

『うーん・・・考えすぎて夜しか眠れなかったよ・・・』

『訳の分からないことを言ってるんじゃないわよ! うんうん唸っているから心配していたら、そのうち眠りこけてたじゃない。』


『あはは・・・やっぱり私、難しいことを考えるのは苦手みたい。』

人間の冗談交じりの流行語は、妖精には通じないようだ・・・って、大事なのはそこじゃなくて、体育倉庫の思念さんが関わった騒動がもとで、学校が神社にお祓いを依頼したということ・・・!

梢ちゃんが聞いた話によれば、本当に効果のある所らしいし、それをされたら思念さんはどうなってしまうのだろう?


『考えても無理なら仕方ないでしょう? シオリは人間が学ぶための場に通っているはずなのだから、そちらに集中しなさいな。』

『うぐうっ・・・!』

お父さん、お母さん。私はこの世界へ来てまだ数日の妖精に、学校への向き合い方を心配されています・・・


『シオリ、こちらを見ている人間がいるわよ。』

『ふえっ!?』

ルルからのクリティカルヒットに悶絶しながら通学路を歩いていた私に、更なる警報。そろそろ、ぼうっとしながら歩いていた容疑で連行されたりしないよね・・・?


「すみません、少し良いでしょうか。」

「は、はい・・・」

・・・と、そんなことはなく、丁寧な口調で話しかけてきたのは、私より少しだけ年上かな? と感じる女の子。


「この近くの高校に用事があるのですが、ご存知でしょうか。」

「あっ! 私が通ってるところです!」

そのまま印刷してきたらしい地図と学校名を見れば、なんとまあ! むしろ同級生か先輩でもおかしくないような見た目だけど、妹さんが受験を考えてて・・・なんて事情があったりするのかな?

・・・初対面の人にそんなことを聞く度胸は、私にはないけれど。


「この先の突き当たりが職員室です。」

「では、ここまでで結構です。ありがとうございました。」

「ど、どういたしまして。」

すごく丁寧にお礼を言われて、こちらが少し動揺してしまう。きっとお家が礼儀正しいところだったりするんだろうな。



『あっ、ルル。気を遣ってくれてありがとう!』

『・・・・・・シオリ、あの人間は危ないわ。』

『・・・へ?』

さっきの女の子と別れて、教室へ歩きながらルルに心の中で話しかけると、返ってきたのは緊迫した声。


『えっ、何か視えたの・・・?』

『止めなさい! こちらから力を使えば、探知されかねないわ!』

『ひうっ!?』

今からでもちょっと振り返って・・・と考えた瞬間、すごい勢いでルルの静止。これ、本気で危ないやつだよね。


『ね、ねえ、ルル。私と話してた時は、そんな恐い人には見えなかったんだけど・・・』

『表面的にはそうかもしれないわ。ただ、下手に刺激すれば消し飛ばされそうな何かを感じるのよ。本当に気を付けたほうが良いと思うわ。』


『わ、分かったよ・・・何にせよ、こっちから感情を視たりとか、何か仕掛けるようなことをしなければいいんだよね?

 さっき会ったばかりの人だし、学校に用事で来たって言ってたし、もう顔を合わせることも無いかもしれないけど。』

『・・・それなら良いんだけどね。まあ、注意するに越したことはないわ。』

『そうだね。ありがとう、ルル!』

もし見かけたら、ルルの力は使わないようにして、何事も無いかのように話そう。

私はそれよりも、思念さんとお祓いのことを考えなければ。部活という情報源がある梢ちゃんから、また何か聞けたりするのかな・・・?



「あっ、詩織。昨日話したお祓いのことなんだけどね・・・」

そんな期待をしながら午前中を終えると、昼休終わりに、梢ちゃんがこっそり話しかけてきてくれた。一体なんだろう・・・?


「部活の先輩が偶然聞いちゃったらしいんだけど、お祓いの人がすごく若い・・・というか、私達と同じくらいの子らしいよ。

 若いのにすごく腕がいい人で、話を聞いて自分から手を上げて来てくれたとか・・・」

「そ、そうなんだ。すごいね・・・」

梢ちゃんに相槌を打ちながら、冷や汗が流れてくる。これって、お祓いに何か関わろうとしたら、ルルと私の身まで危ないってことだよね?


そんな人と、今朝顔を合わせてしまったことへの焦りも感じつつ、私は午後の授業へと意識を向けた。現実逃避なのか、女子高生としてやるべきことをしているのかは、自分の心に聞いても分かることは無さそうだ。

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