お祓いと恐怖

第20話 翌日

『あの人間、今日は来ていないのね。』

『うん・・・体調が優れないためお休みって先生が言ってたから、昨日の影響だろうなあ・・・』

朝のホームルームで伝えられたのは、まだ記憶も鮮明な昨日の放課後、体育倉庫から危険なものを持ち出そうとして、思念さんに攻撃されたあの子が、一日お休みということ。


ただし詳細は語られない・・・というか、私があれを視えたから少しは理解できたけれど、端から見たら何が起きているのか分からないし、分かったところで公表するかは別問題だよね。

私だって、ルルに出会う前の自分だったら、そんなオカルト的なものが原因でしたなんて、信じないかもしれないし。


『そういえば・・・みんなの反応が気になるかな。』

『まあ、少し視るくらいなら、疲れは出ないと思うわよ。』

『うん。ありがとう、ルル!』

ルルが授けてくれた力で、周りの感情を少し眺めてみれば、梢ちゃんは心配そうな様子。他の子達も大体同じかな。

元々あの子と仲が良くなさそうで、体育の授業での喧嘩から梢ちゃんに注意された、もう一人の子は・・・怯えているような様子だ。昨日の騒ぎの時も見に来ていたはずだし、もしかしたら自分が・・・という気持ちもあったのかな。



『・・・とりあえず、今日のところは何かが起きそうな様子は無さそうかしら。』

『うん・・・お昼は思念さんのところに行って、挨拶だけしてみよう。』


『シオリ・・・分かっているとは思うけど、気を付けなさいよ。』

『大丈夫。どのみち挨拶以外のことはできないから。』

職員室から鍵を盗んであの中に入るなんて、行動内容的にもメンタル的にも、私には無理ゲーってやつだよ・・・!


『それなら良いけれど、様子がおかしかったら、すぐに距離を取りなさいね。』

『うん。多分、大丈夫だとは思うけど。』

あの思念さんは、自分が許せないことが起きない限りは、危ない存在ではない気がする・・・

あれ? こういうのってフラグにならないよね?



*****



『フラグ、無事回避・・・!』

『シオリ・・・急に何を考えてるのよ、あなたは。』

そうしてお昼休みの挨拶も、その後の授業も何事もなく過ぎて、放課後は最近ルルが興味を持っていた、学食でお茶を飲んでいる。よくある紙コップの自動販売機のやつを・・・だって、帰ってから夕御飯を作るのに、食事のメニューは控えるよね?


『いや、大丈夫だとは思っていたけど、実は何か起きるんじゃないかって、少し不安になってただけ・・・』

『ああ。シオリは基本的に、気が弱いほうだものね。』

『うっ! おっしゃる通りです・・・』


「おっ、詩織。今日は学食なんて来てたんだ。」

「あっ、梢ちゃん。たまにはここでお茶を飲むのも良いかと思ってね。」

ルルと心の中で話していると、これから部活だろうか。ひょっこりと梢ちゃんが現れて話しかけてくる。うちの妖精が興味を持って・・・なんてことは、もちろん言えない。


「ああ、気分転換もいいよね。そういえば、ランニングは始める気になった?」

「ひうっ!? も、もう少し考えさせて・・・」


「あはは、無理することじゃないけどね。まずは早めに歩くことから考えてみるといいよ。」

「う、うん・・・」


『シオリ、そんなこと考えてたの?』

『昨日、ルルが飛んでいった後に引き留めてたら、いつの間にかそんな話になったんだよう・・・!』

まあ、体力をつけたいなんて話題を振った、私のせいなんだけどね。



「そういえば、例の件なんだけど・・・」

「えっ? あっ、そういうこと・・・」

梢ちゃんの言葉が、一瞬理解できなかったけれど、よく見ればその視線は、思念さんのいる体育倉庫に向いている。


「部活の先輩が、先生達からの情報をゲットしてきたんだけど、どうやらお祓いを頼むらしいんだよね。」

「ふえっ・・・?」


「あんなことがあったんだし、何もしないわけにはいかないんだろうけど、信心深い先生がいるみたいでね。神社にお願いするって話になったらしいよ。」

「そ、そうなんだ・・・効果あるのかな。」


「うん。私も半信半疑ではあるけど、なんでも実際にやばいことが起きた場所が、その神社に頼んだら良くなったって、一部では知られてるらしいんだよね。」

「そ、そんなところがあるんだ・・・」

私の知らない世界・・・いや、異世界の妖精と出会うのも大概だろうけど。


「まあ、それで本当に危ないことが起きなくなるのなら、良いとは思うけどね。」

「そ、そうだね・・・」

・・・あれ? 本当に力を持った人がお祓いをしたら、思念さんはどうなっちゃうのかな?

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