第9話

「たっだいま~。」


家に帰った涼太は、怒っているかもしれないという愛のことなど頭の片隅にもよぎらせずに、呑気に帰ってきた挨拶を言っていた。


「愛~?」


おかしいな。リビングにいないし、返事も帰ってこない。一応部屋に気配はあるから何かあったとかじゃないみたいだし放っておいてやろうか。


「とりあえず、バーベキューの用意しないとな。」


そう言いながら、バーベキューの準備のために庭に出ようとしている涼太。

次の瞬間、背後から気配を感じることができた。

振り向いて攻撃をしようとした涼太であったがその気配の正体がわかると受け入れの構えをする。

なにかが涼太の胸へと突撃してきたのである。

すこし柔らかい感触がするなにか。

そのなにかは涼太の背中に両手を回し、力いっぱいに抱き締める。

まるで崖に落ちかけている状況のような力で抱き締められる涼太はやっと自身の状況を察することができた。


「ただいま、愛。」

「おかえり、お兄ちゃん。」


そのなにか、ショートカットできれいに整えられている黒色ながら透き通っているようにみえる髪をしているその少女、神咲 愛は、二重のきれいで大きな目に小粒の涙を浮かべ涼太の帰還を喜んで迎えていた。


愛は涼太の顔をしっかりと見据え生きていることを何度も確認すると涼太の胸板に顔を埋めて小さな嗚咽を発していた。


やれやれ、また泣く女の子か。

しょうがないか、こいつにとってはトラウマだっただろうし。本当に将来が心配だ。こんなに泣き虫だったらきちんと生きていけるのか本当に心配になってくる。


今日で二回目の女の子が泣く様子に若干の不安と心配の気持ちをいだきながらも、今はどうしてあげればいいのかわからず、とりあえず黙って愛の頭を撫でるのであった。











ピンポーン


涼太が食材の準備をしていた時、家のチャイムが鳴った。


「愛~!出てくれ~!」


庭で生肉などを触っていたりしていたのでとりあえず愛にでてもらえるように呼んだ。


「わかった~。」


ほんの1時間前のことだが、さっきの様子を微塵も感じさせない姿に涼太はとても安心していた。


まだトラウマは治ってはいなかった。

だけどこのまま時間が経てばきっとそのトラウマも消えてくれるだろうと願えれば一番いいんだけどねぇ。

おれが死んだらまた同じ繰り返しだろうな。

改めて再認識させられた。

まだまだ死んじゃだめだ。

愛を幸せにしないといけない。それがおれの一番優先すべき役目。そうだよね?

返答してくれるはずもないのについ考えてしまう。おれもおれで重症かもな。


そんなことを考えているうちに愛が流陣、渡辺、そして七瀬と七瀬母をつれて庭の方に来ていた。


「相変わらず前来た時同様広い家だな。」

「まぁな、これでも自分で買った家だからな。」

「えっ!お兄ちゃん親戚のおじさんからもらったって言ってなかったっけ?」

「そのころはA級だなんて言えなかったんだから嘘を言ったんだよ。」

「A級になったらこんなに稼げるんだね~。わたしも上級ダンジョンの下層で止まっているんじゃなくて、早く深層まで行ける実力になりたいなぁ。」


軽い会話をしている四人ではあるが、このような会話をして彼らは目を背けているのである。

しかし、


「ストーッップ!!!あんたらなに土下座だけじゃなくて床に頭突きをしようとしてんだ!」


土下座をしていた親子、七瀬親子は顔をあげる。

そしてそんな二人を涼太は無理やり立たせて話を聞いてあげる。

まったく親も子もにすぎだろ。両方とも頑固で変なところで誠意を見せようとしてくる。なんで立たせるだけで10分もかかってんだよ。








「つまりお礼がしたかったわけね。なら土下座なんかするなよ。それ普通謝るときにすることだろ。」


七瀬 由奈の母、七瀬 由利亜(ゆりあ)は由奈ととても似ている顔立ちをしておりとても美人だ。ママになってほしいランキング1位を争いそうな人だな。

そんなアホなことを考えている涼太とは裏腹に涼太の反対側にすわっている七瀬親子はとても複雑そうな顔をしていた。(他3人はバーベキューの準備の仕上げをしながら楽しそうに庭でしゃべっている。)


「ですがやはり誠意を見せなければですし。」

「誠意って謝るときに見せるものでしょ。おれでも知ってるよ。ていうか七瀬は「ちょっと待って」?どうした?」

「わたしのことこれから由奈って呼んで。」

「なぜ??」

「お母さんも七瀬だよ?だからお母さんは由利亜って呼んで、わたしは由奈って呼んで。」

「まぁそれくらいならいいけどさぁ。」

「あ、それならわたしのことも渡辺じゃなくて瑠色ってよんで~!!」

「それならおれたち全員名前で呼びあおうぜ。せっかく繋がってる変な縁なんだしさ。」

「いいね!それがいいよ!そうしよう!ねっ、

涼太くん?」


何で女子って圧が強いやつがこんなにいるんだ?でも確かに名前で呼びあったら距離もみんな近くなるかもしれないしな。だけど女性の名前を呼ぶのはすこし緊張するがな。うまく取り繕うか。


「そうだな。せっかくだしそれもいいかもしれないな。」


「やった~~~~!!!」


えっ、めっちゃ喜ぶじゃん。そんなに名前呼び嬉しいか?なんかおれも嬉しくなってくるな。

ん?なんかいもうとぉのほうから変な圧と殺意が。なんだ?こっわ。


「ま、まぁとりあえず、準備もできているみたいですし、庭で話をしないか?」

「それもそうですね。そうさせていただきましょう。ふふっ。」


女性って怖いなぁ。












「「「ということでお願いします。修行をつけてもらえませんか?」」」


せっかくのバーベキューなのに何でこうなったんだ。




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