第5話


なんとかギリギリでミノタウロス?と少女の間に入り込み、

『魔力衰弱×固有異能 調和による運動エネルギーの支配』(衝撃及び斬撃完全緩和型)を使いミノタウロス?の大斧による攻撃を防ぐことができた。

とりあえず、攻撃するか。

そうしておれは腰に携えていた手斧を空いている右手で素早く手に取りミノタウロス?の空いている胴に向けて横に手斧を振るった。


そのスピードはグリマール程度なら反応させずにそのまま殺せるほどの速さをしていた。

しかしミノタウロス?は、涼太の放った横薙ぎを少しの傷を負いながらも、躱してみせた。


「なんだぁ、思ったよりも反応速度が良いな。というかほんとにギリだったな。」


前言撤回。こいつ最低でも最上級ダンジョンの下層クラスはあるな。とりあえず今明らかに動揺もしているし少し後ろの様子も見てみるか。


そうして後ろを振り返ったとき、

 

おれはきっとありえないものを見たような顔をしていたのだろう。それだけ衝撃的だったし、とんでもない事態だった。


「神……咲……………くん?」


「お前まさか七瀬か?」


まさかのまさかで七瀬だった。

はぁ?どうゆうこと?

いや、ちょっと待てよ。そういえば魔力探知したとき確かに感じたことのある魔力の気配だったんだよな。あの時は急いでて構う暇がなかったけど。あれ?でもなんでここにいるんだ?


「なんでお前がここにいるんだ?」


涼太は前を見据えながら由奈に問いかけた。


「えっとぉ、昨日言ったよね?明日上級ダンジョンで初配信するって。」


「あぁぁぁぁあ、そっかぁここ上級ダンジョンだもんねぇぇ。気づけよおれ~。ってちょっと待て、ていうことは今配信してんのか?」


「うん…、してるよ、今も。」


「なるほど。」


まじかまずいな。どうする。こいつどうやって倒すか。確かS級特権でランクを低く偽装してライセンスを見せることができたから、とりあえずA級探索者ってことにして誤魔化すとして、でもA級の場合こいつは絶対に倒せないんだよなぁ。そもそもS級探索者になるには上級ダンジョンの完全踏破、つまり深層最下層までのボスをすべてたおさないといけないからその上級ダンジョン深層最下層のボスよりも強いこの特殊個体のミノタウロス?を倒せばS級だって断定されるかもしれない。

いや待てよ、たしかに配信されているとしても実際に見た訳じゃないから本当の強さなんてわかるはずもないし、七瀬はあのミノタウロス?との実力差が離れすぎて正確な強さはわからないだろう。

ならおれがすべきことは、圧倒的な速さや圧倒的な膂力で勝つのではなく、他の人がみてもある程度の強さかわかるくらいの動き、つまり純粋な魔力技術でミノタウロス?を若干弱く見せつつ手数の競り合いで勝てたという風な戦い方が一番誤魔化しが効きやすいだろう。


この思考秒数はたったの2秒である。

涼太は戦闘だけでなく頭の回転も思考能力もずば抜けているのだ。


「とりあえず神咲くん?助けに来てくれたのはありがたいけど神咲くんじゃ勝てないよ。わたしが少しでも時間を稼ぐから神咲くんは逃げて。」


ゆっくりと体を動かしながらもおれの前に来た七瀬におれは数度瞬きをして質問をした。


「なぜそこまでして?」


思うように言葉が出てこなかった。

それでも七瀬はおれの言いたいことを理解したかのように返した。


「わたしは自分の命をかけてまでたくさんの人々を守っていた探索者に憧れたんだ。

確かに死ぬのは怖いけど誰かのために死ねるならわたしにとって本望だよ。」


おれはあまりにも眩しい決意に、意志に、願いに、思わず惹かれてしまった。


ここまでの意志を持っているものを絶対に死なせてはいけない。そう心の底から叫んでいた。


「まぁそういわずに任せろって。さっき、おれがミノタウロス?の攻撃受け止めていたのしっかりと見ただろう?安心しておれの後ろにいろよ。」


そんなおれの様子に七瀬は納得と疑惑の表情をしてこちらをみていた。


「確かにあの光景をみたなら任せていいのかもしれないけど、でもあとでちゃんと聞かせてもらうよ?」


「??なにを?」


「なんで上級ダンジョンにいるかとかだよ。さっきの力についても聞きたいけど、あと君探索者やってないって言ってなかったっけ。あんな野蛮な行為をしていたら妹が悲しむとか言ってたような気がするんだけど?」


「あ~そういえばそうだったな。まぁそれに関してはまたあとでな。」


「はぁ、まぁいいけど、とりあえず絶対に死なないでよ。」


「わかってるよ。」


そうしておれはミノタウロス?へと足を踏み出した。


「待ってくれるなんて案外優しいじゃねぇか。」


いやこの感じは恐怖だな。間違いない、おれに対して畏怖の念を抱いている。逃げるのはプライドが許さないってやつか?


「まぁどうでもいいな。くくっ、さぁ、戦おうぜ。」







《side七瀬 由奈》


本当に信じられなかった。

何が信じられないかというと

全部だ。

彼が上級ダンジョンにいること事態も信じられなかったし、わたしがまだ生きているということも信じられない。

しかし今、一番信じられないことは神咲くんがわたしのことを圧倒していたモンスターと対等に渡り合っていることだ。


ミノタウロス?が涼太に向けて大斧を振る。その大斧を涼太が体を右に少しずらすだけでその攻撃を避ける。そして涼太は手斧でミノタウロス?にむけて右からの袈裟斬りを仕掛ける。その袈裟斬りをミノタウロス?はギリギリで避ける。しかし後ろに下がったミノタウロス?に接近し避けた瞬間振るった手斧を切り返しもう一度斬撃を放つ。今度はミノタウロス?の左腕を切り落とした。


「がぁあああああああ!!!」


ミノタウロス?が腕を切り落とされた痛みに絶叫をこぼす。


やばすぎる。強すぎる。わたしよりもずっと強い。

あまりの綺麗で繊細で洗練された動きにわたしは唖然とするしかなかった。

これってA級、ひょっとしたらS級までもありえる。そういうレベルの強さだった。

速さはミノタウロスと同じくらい、しかし魔力技術と身体技術の差が圧倒的に涼太が上だった。


:強すぎるwwww

:これS級レベルなんじゃない?

:いやでもそこまで派手じゃないしAだろ

:そうだな。地味だし。でもだとしても十分強いだろ


そんなコメントが流れる。これどっちだろう?

わたしはさっきまで死にかけていたとは思えないくらい元気になっていた。


噂は本当だったんだ。

嘘じゃなかった。

実際に彼からお言葉をもらって生き延びることができたんだから。


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