第4話

《side七瀬 由奈》


「よし、それじゃあ行こうか。」 

 

休憩を10分もとったしそろそろ行かなきゃな。


;いやもう少し休めよ

:ほんとそれ

:体力どうなってんの

:危ないから休みな

:さすがにもう少し休んだ方がいいんじゃない?


「いや、休憩しているときに魔力で疲労回復の効果が出るように魔力を全身に行き渡らせていたからだいじょうぶだよ。」


そう、これは瑠色が教えてくれた短期間で疲労を回復する方法。

瑠色には感謝しないとな。








「なんかモンスターがいないなぁ。ずっと通路歩いているけどなにも出てこないんだけど。」


:それは確かに

:そう考えるとおかしいな

:こんなにでないのは明らかにおかしい気がする

:まぁでもなにかヤバイのがいるとかじゃないし大丈夫でしょ


「そうだねぇ、せっかくの上級ダンジョン初配信なのにこれで終わるのはもったいないしもう少し行ってみようか。」


そうしてまた少し歩いて曲がり角を曲がったとき、


「は?」


わたしはその姿をとらえた瞬間あまりにも違和感がある姿に唖然とした。

見た目からしてやばいモンスターがいた。

あれは人型のミノタウロス?

ミノタウロス?の肌はなぜか緑色になっており腕が四本あり目が6つもある。


:ちょっとまって何あれ

:なんかやばくない?

:見たことないんだけど

:逃げた方がいいんじゃない?

:待って、まさかあれって特殊個体じゃない?


ドローンのコメントからそんな言葉を拾うことができた。だけど意味を深く理解することができない。それになぜかミノタウロス?からは目が離せない。なんだろう、目を離したら確実にやばい、そんな気がした。


そして次の瞬間、


こちらに気づいたミノタウロス?が魔力を使った威圧を出した。

そしてわたしはその魔力威圧を浴びた瞬間、体が動かなくなった。

聞いたことがある。自分が受け止めることができる威圧には基準がありそれを越えると体が動かなくなるのだ。まさに今わたしの身に起こっている現象そのものだ。


魔力威圧とは魔力を持っている生き物なら使うことができるものだ。力を体外に放出し圧倒的な魔力差があると相手のからだの動きを止めることができる。基本的に魔力を持っている上位個体はA級探索者並みの魔力を持っている。それに加え上位個体から特殊個体になると魔力が増す上にその魔力が歪むため今回のミノタウロス?ならA級探索者のからだの自由を奪うことも可能である。そのため由奈が動けなくなるのも当たり前のことなのである。


やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。

体が動かない。

どうすればいい?

ここで死ぬの?


体が動かなくなった由奈にミノタウロスが近づいてくる。


:逃げろ逃げろ逃げろ!!!!

:まじでやばい

:今から行くから待ってて!!

:だめだ。確実に間に合わない

:ナナちゃん早く逃げて!!


コメント欄から様々な心配と逃げろというコメントが流れていたがわたしは見ることができなかった。

そうして遂に由奈に手を伸ばせば届く距離にミノタウロス?が来てしまった。

そうしてミノタウロス?が大きな斧を振りかぶる。


ここで死ぬの?

もう終わり?

いやだ絶対に

家に帰ったらご馳走だってある

まだまだ瑠色と遊びたい

まだ夢が叶ってすらいない

神咲くんからお言葉だってもらったんだ

諦められるわけがない

死ぬわけがない

絶対に死なない!!!


由奈の心のなかの大きな叫びで無意識に魔力が放出され一瞬だったがミノタウロス?の魔力威圧の魔力量を上回ることができて、体の硬直を解くことができた。

そして由奈はバックステップでミノタウロス?の大きな斧による攻撃を避けることができた。


なんとか避けれたけどさっきの魔力放出のせいでほとんど魔力が残ってない。


:ナナちゃん今すぐ逃げろ!!!!

:今回はもう無理だ!!!早く逃げて!!

:由奈早く逃げて!!!お願い!!!


「あははは、ごめん今魔力がほとんど残っていないから後ろ向いて逃げたとしても一瞬で追い付かれちゃう。」


なんとか戦おうと前を見据え、意志を見せる。

しかし目の前で対峙するだけでも体が震えてしまう。戦いになってるのかな?


どうしようどうしよう

まじでどうしようかな

使えるものは、わたしの長剣はさっき落としちゃったし、

石は?

何もない

使えるものが何もない

あれ、これ詰んでない?

諦められない

けど対抗できるものが何もない


そういうふうに思考を巡らせている由奈に今度、ミノタウロス?は由奈の背後に回りまた大きな斧を振りかぶった。その移動は由奈がやっと捉えることができるほど速い動きだった。


あ、………………終わった


由奈がミノタウロス?の斧による攻撃準備を認識した瞬間、すべてを諦めてしまった。あまりにも無情。あまりにも現実的。そんな絶望のときに由奈は、


お言葉、意味なかったじゃん


そう、噂のお言葉が意味のなかったことを実感した。


どうせならもっと瑠色と遊びたかったな。

どうせならお母さんに親孝行したかったな。

お父さんとも最近会えてないし。

どうせなら神咲くんや桜井くんともっと仲良くなって、瑠色と4人で遊びたかったな。


そうして死の覚悟をして目をつむった。


ザッッ


しばらくしてもミノタウロス?による攻撃が降ってくることはなかった。


おかしいなと目を開けると、


最初は誰かわからなかった。

その人は男性だった。

その男性はミノタウロス?による攻撃を左手だけで防いでいた。

あまりにも訳のわからない光景にわたしが目を見開いていると、その男性が攻撃を仕掛けた。

腰に携えていた手斧を素早くミノタウロス?のお腹に向けて振りかぶった。

ミノタウロス?はそれをギリギリのところで躱した。彼の振りかぶる瞬間はほとんど見ることができなかった。

ミノタウロス?はなんとか躱すことができたがお腹が少し切れていた。


「なんだぁ、思ったよりも反応速度が良いな。というかホントにギリだったな。」


男性がその言葉をついた瞬間どこかで聞いたことがある声だと確信した。


男性が振り返る。

男性は驚いた顔をしていた。

きっとわたしもマヌケで驚いた顔をしていたのだろう。

それぐらいの衝撃だった。


「神……咲……………くん?」


「お前まさか七瀬か?」


相変わらずの整った顔立ちに驚きの色を見せてわたしの方を向いていた。


この時わたしは、


驚いた顔も絵になるなぁと思った。







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