第35話 至極マッド

首都に向かう最中、ビルが邪魔で見えなかったが、


大気は揺れ、雲は地上からの光で赤やら青やらに染まり、


これは戦争なのだと痛感した。


俺と先輩がたどり着いたその時には、道路上には大量のガラスに瓦礫、


窓のないビル、鉄の匂い、地獄と化していた。


「先輩、救助を任せていいですか?


瓦礫の除去なら先輩の能力の方が向いているでしょう。」


「任せとけ。」


そう言って先輩は


大舞踏壊ブレーキングダウンダンスホール


両足に力をこめ、周囲の瓦礫を一瞬にして崩壊させ


「って、先輩。埋まってる人まで!!」


ちゃんと見てみると、


「安心しろ、足場の指定と重力操作は間接的でも発動するが、


人間を消すのは直にしか出来ねえから。」


瓦礫があった場所には、子供に覆いかぶさって背中から血を流している大人や、


抱き合って、互いを守ろうとする兄弟姉妹がいた。


「よし、次の現場に向かうぞ。」


これって俺いらねえんじゃねえかと思いながらも、


空中を疾駆する先輩の後を追う。


しばらく進んでいるうちにだんだんと大きくなっていく戦闘音。


濃くなっていく鉄の匂い。


ただ、死体の大半は政府の人間のもので、


侵攻は順調なようだ。


そして隊列の最後尾に追いついた。


「治安維持隊です。援護に来ました。大丈夫ですかー。」


はっきり言って油断していたんだと思う。


ピシャっ。顔に生暖かい液体がかかった。


鉄の匂いに、前方に首のない人間。これは血だ。


何が起こったのかわからない。


政府の仕業か!?


革命軍の隊員だって生半可な覚悟で来たわけじゃないだろう。


だから、こいつらが死ぬのは百歩譲っていい。


こいつらだって人を殺してきたんだろうからな。


だが問題なのは先輩を失うことだ。


この現場で一番必要なのは先輩だ。


「先輩、いったん逃げろください。」


パニックからか言葉が変になるが気にしない。


「先輩、ここは俺に任せてさっさと隊列の一番前の方に行ってくれ!!」


「っち。すまん憶人、任せる。」


先輩は一瞬で状況を把握、


おそらく俺よりも先に把握し終わっていたのだろう。


俺がしゃべるやいなや上空へ飛んだ。


超高速か透明化か知らねえがこれで先輩は安全だ。


「はぁ、先に行けって言うのは死亡フラグだけど俺は死んでも問題ねえしな。」


バゴっと音がして俺の腹に穴が開く。


見えるのはゴッツイ男の腕。


仮人迫命ヒトデナシバグ


俺は男の拳を正面から受け止めていたことにした。


「へー。想像通りのゴッツイ顔だ。


おっさん、もしかして異能力者?」


「ガキの癖によくやるじゃねえの。


ああ、俺は軍部、じゃねえが政府直属の異能力者。


神田 玄人くろとだ。このクーデターの首謀者を殺してこいって命令されてな。


あと、治安維持隊を潰してこいってさ。」


ははっ。異能力者を隠しておくなよな。


「俺は藍花 憶人。治安維持隊の最弱さ。」


まったく、最近は狂気抑えてたのにさ、


治安維持隊かぞくを狙うっていうんだったらさぁ。


「戦いの前に、てめえに一つ質問だ。」


「いいぜ、なんでも答えてやるぞ。」


「てめえはどのぐらい死ぬ覚悟でここにいる。」


「別に死んでも構わねえよ。」


「そうかそうか。その程度か。」


俺の反応が癪に障ったのか、


「なんだガキ。そういうお前はどのぐらいなんだよ。」


訊き返してくるおっさん。


「あぁ、俺か?俺はぁなあ。」


んなもん当然。


だ。」


狂気むき出しでもいいよなぁ。


「狂ってやがるなぁ。それでも治安維持隊かよ。


そんじゃぁ、おれからも質問一つ。


てめえ、ほんとうに人間か。


悪魔か化け物じゃねえの。」


ひどい言われようだな。


この口角の上がる方だとそう思われても無理ないか。


だけどよお。悪魔?化け物?


「不正解。俺はただの仮人ヒトデナシ。」


笑わせるなよ。俺の狂気はそんな生ぬるいもんじゃねえぞ。

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