31杯目 野生の魔物

 朝食に単純に焼き魚を頂いた。

 笑っちゃうよな、ただ塩で焼いただけでこんなにも旨い。

 

「雨……降るかな……?」


 今日は空に雲が多く少し風が湿っている。

 雨の日は無理をしても仕方ないので、できる限り早く宿場町か村にでも着いておきたい。

 俺は急いで片付けを済ませて出立する。


 少し速度を出した小走りで街道を進む。

 こころなしか他の旅人達も足早に、と言っても歩いている人間は俺以外殆どおらず、皆乗馬しているか、馬車や、乗合馬車を利用している。雨の前に次の屋根の下で休める場所を求めているように見える。


「振ってきたか……」


 しばらくするとポツポツと頬に水滴が当たる。

 俺は雨具をかぶり、靴を交換しさらに歩みを早める。

 しかし、天候は無情にも悪化して、土砂降りの雨になってしまった。


「どうするか……」


 一つは森などに入って雨が止むまでキャンプをする。

 もう一つはこのまま歩き続ける。


「いや、ここは急ごう。次の街まで本気で走れば今日中につけるはずだ」


 宿場町も物資の補給などにちょうどいい場所であれば大きく発展し本当の町と呼んでも遜色ない規模になることもある。

 目的の町もそんな場所の一つだ。

 そういう町は基本的に領主的な人やギルドなどが存在しない。

 一般的には最初に商売を始めた人間やそれらの組合による自治になっていることが多い。冒険者ギルドが有るような大きな街は基本的に大きいダンジョンとセットになっていることがほとんどだ。そうでなければ人々の行き交う重要な拠点、もしくは王が住む場所ぐらいだろう。


 雨が雨具を激しく叩きつける。

 これは雨の勢いが強いのではなく、俺が猛スピードで走っているからだ。

 突進状態なので、足場の悪さも無理やり力でねじ伏せて、泥水雨水を巻き散らかしながら、できる限り街道脇の草地を走るようにしている。


「魔物だぁ!」


「魔物が出たぞぉ!!」


 妙にすれ違う人が増えたと思ったら、そういうことか。

 俺は背中に背負っている猪突を手に持ち、そのままの勢いで現場まで走り続ける。

 しばらくすると魔物と交戦している一団が視界に入る。

 このまま行けば魔物の横っ腹に突っ込めるな……

 俺は神の加護を全開にして、魔物の集団に突っ込んでいく。


 神の加護は人間の能力を飛躍的に上昇させる。

 戦闘中は人間離れした力を発揮できる。

 だが、日常生活で常時そんな力が出ていたら、非常に暮らしにくい。

 便利なことに、加護は出し入れ自由だ。

 初めて加護を得た人間が最初に練習するのが、戦闘時と日常生活で息をするように加護を発動したり切ったりすることだったりするのであった……。


「加勢するーーーー!!!」


 叫びながら敵の中腹に猪突を振り回しながら突撃をかます。

 敵が多い……しかも、混成している……

 集団をぶち抜いて、勢いを消さないように噛みちぎられた後方集団に突撃をしていく。しかし、この突撃は敵からしたら恐ろしいな、弓の攻撃に注意しなければいけないが防ごうとする剣や槍は猪突の一振りで粉砕されていく。魔物の用意する板切れのような盾もまるで役に立っていない粉々に飛び散っていく。

 突撃攻撃に巻き込まれると無傷ではいられない。

 ボロボロの残党を相手にすればいい。

 しっかりと距離を取らないといけないのと、突撃中のカウンターに弱いのが欠点だ。


 俺の突撃によって敵の勢いは完全にそがれ、そのまま戦闘をしていた奴らと魔物を掃討することに成功した。


「助かった! いや、量が多くて手を焼いていたんだ!」


「あんたすげーな、ソロなのか? どうだうちのパーティに!」


「おい、ずるいぞ、うちも声をかけようかと思ってたんだぞ!」


「あー、悪い。しばらくはソロでやるつもりなんだ。

 臨時は組むつもりだから、そんときはよろしく」


 戦いを終え、まずはお互いの無事を祝うように握手を交わしていく。

 どうやら2つのパーティが魔物に対峙していたようだ。

 最初に話しかけてきた暑苦しい男が火竜の咆哮パーティのリーダーでバース。

 両手持ちの長剣使いの大男でゴツい。両手剣はロマンの塊だ。

 次に話しかけてきた飄々とした男が風見鶏の巣パーティーリーダーでウィンド。

 双剣使いだ。双剣は夢がある。

 両方のパーティもアイアンとカッパーの混成だったおかげでアレだけの魔物を抑えられていたんだろう。


「それにしても、この量は異常だな、しかも混ざっているし」


「まずいな、街道の傍に巣が出来たか?」


「可能性はあるよな……」


 野生の魔物は基本一つの種で集まる。

 複数の種が一緒に行動をするのは、他の魔物を使役したり、共同で生活を送り始めた可能性が考えられる。

 もしくはダンジョンが溢れた場合だ。

 逆にダンジョンが溢れたら、この程度では済まない。

 魔物は他の生物を喰らうことで増えていくので、豊富な餌場が存在すると増える。知能が高い魔物は自らよりも低級な魔物を使役して狩りの道具のように使うことも有る。

 今回の魔物はコボルト、犬人間とレッサーウルフ、典型的な組み合わせだ。


「コボルトリーダーぐらいはいるだろうなこの数が外に集団で出てるなら……」


「キングとかじゃないよな……」


 もうキングは勘弁して欲しい。


「とにかく、ギルドに連絡しないとな」


「そうだな、ゲンツさんも次の街が目的地だろ? 一緒に行こうぜ、もしかしたらまた集団の襲来もあるかもしれない」


「そうだな、そうさせてもらう」


 少し日も傾き始めていたが、街まではもう少しらしい。

 俺は2つのパーティと一緒に街を目指した。


 

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