32杯目 宿場町

「おお、見えてきた見えてきた」


 総勢12名のパーティ行動は本当に久しぶりだった。

 でも、正直、めっちゃ楽しかった。

 周りは若い子たちばっかりだったが、男同士ということもあって、あっけらかんとしてるというか、あけっぴろげというか、すぐに仲良くなって子供みたいに夢や過去の武勇伝に盛り上がった。男はいくつになったもガキだなと思い出した。


「ゲンツの兄貴! 本気で今度話に行くんで!」


「あ、自分もマジなんで、また今度」


「ほんとなんなんだよその兄貴って……だから、臨時でな、臨時で」


 幾度かの戦闘をこなしていくうちにいつの間にかなつかれてしまった……

 熱いバースも飄々としたウィンドも胸に秘めたる情熱は燃え盛っているやつだってのは解った。むしろ二人のパーティが一緒になってクランでも作ればいいのにってくらい良く似ていた。

 だからこそ、居心地が良かったんだろう。


「とりあえず早馬は出してもらったから数日すれば冒険者ギルドに連絡が行くはずです」


「どうする? 自主的に場所くらいまでは探してみるか?」


「二人のパーティは目的はないのか?」


「急ぎはないっす。いずれダンジョン街に腰を落ち着けるつもりでしたが……」


「うちも同じく。ゲンツさんがやるって言うならうちら手伝いますよ」


「おいおい! 抜け駆けは無しだぜ、兄貴、俺等も従いますぜ!」


「いやいやいや、冒険者同士、対等に話そう。

 まぁ、俺は巣の位置くらいは把握してあとから来た奴らに提示するくらいは手伝いはしようかと思っている。


「なら俺らも行きますぜ兄貴!」


「もちろん我々も」


「わかった。協力しよう。

 今の情報を整理しよう」


 それからは周辺の地図と魔物との戦闘場所を元に探索範囲や担当を決めていく。

 

「それじゃあ、明日からはよろしくってことで」


「かんぱーい!」「乾杯」


 今回は魔物の巣の位置を探る簡単な依頼、しかも2パーティ、銅級に鉄級がいて、相手はコボルトに狼、ようやく休める街についたらやることは飲みだ。

 割高だけども、多少奮発した食事に酒を楽しむってもんさ。


「いやー、兄貴の武器、棍棒選ぶって渋いっすよねぇ~」


「俺ももう少し金回りが良ければスタンダードな剣と盾で行きたかったんだがなぁ」


「あー、わかります。双剣マジで金食い虫っす」


「刃のつく武器は維持費がなぁ……俺もネームド持ちになりてぇなぁ!!」


「やっぱり、ネームドはいいですか?」


「ああ、すげーぞ、俺もまだ付き合い短いけど……もう、離せない」


「かぁー! 羨ましい!」


「それにしても、ゲンツさんってどう聞いてもその女の子たちとやりましたよね?」


「やってねぇよ!」


「マジっすか、あ、兄貴ってそっちなんすか……?」


「ああ、冒険者多いっすもんね。俺そうじゃないけど、理解はあります」


「いやいや、勝手に話を進めるな!

 よく考えろよ、俺もう45だぞ?

 相手は20とかそんくらい、もう、娘だぞ?」


「あんまり年齢関係なくないっすか?」


「いや、あるだろ?」


「だって、好きになったら年齢とか気にしてらんねーっすよ」


「そうですよ、俺ら冒険者なんていつ死ぬかわかんないんだし、せっかくお互い悪い気してないんだったらとりあえずやっとけみたいな」


「な、え、そ、そういうもんなのか……?」


「少なくとも、バリバリ冒険してるやつらはそうじゃないっすかね?」


「俺もそうだと思います」


 若い子と話して、最大のショックだった。

 片田舎の小さいダンジョンに固執したくたびれた生き方をしていたせいで、そういう話は知らなかったし、少なくとも俺がそれなりに冒険者していた頃は、きちんとそういうことは家族を持つことを見据えてた奴らがほとんどだった……


「はぁーーー……歳を感じちまうぜ……」


 エールが苦く感じる。


「いや、兄貴、なんか自分のこと年寄り扱いしますけど、ぜんぜんまだまだ若いっすよ!?」


「正直、大人の魅力ムンムン出しながら年寄り年寄りいい過ぎると嫌味っす」


「は、はぁ!? マジで言ってるのか……?」


「いやいや、こっちが言いたいっすよ。

 まてよ、兄貴、シルバーになったの最近って言ってましたよね?」


「結構止まること無く活動しまくって、落ち着くこともなく……」


「そうだけど、それが何か……?」


「最近落ち着いて鏡とか見てないですよね、自分自身の姿をきちんと見てないんじゃないんですか?」


「……ああ、確かに……」


「それだ。ちょっとまっててください」


 ウィンドは荷物をガサゴソっと漁って戻ってきた。


「今のご自身の姿をきちんと見てくださいね」


 扉を開くと美しい鏡面が現れる。たぶん結構な値打ち物だ。

 そして、その鏡には……


「誰だこれ……」


 以前の自分とは似ても似つかない、というか、俺にこんな時代はなかったぞと言いたくなるような、なんというか、そうだな、力強い力を秘めた瞳に引き締まり大人の余裕のある顔立ちの中年の男が映し出された。小汚い、愛想笑いジワの痩せこけた男だった過去の姿とはまるで違う。自信が表情に現れている……


「ほ、本当にこれが、俺? 魔道具とかじゃないよな?」


「やっぱりかぁ、肉体が今の力に追いついて変化したんですよー。

 安定するのに数ヶ月かかるって聞いたんで、たぶん周りの女の子たちはどんどんかっこよくなる兄貴にドギマギしてましたよ、絶対」


「まじかよ……」


 色々と顔の表情を変えると鏡の中の自分も変化していく。

 ああ、これが、今の俺なんだ……

 自分のことながら、良い面構えをしている。


「これ知ってたら……もう少し……いやいや、貴族のお嬢様は流石に!」


「何言ってるんすか! 貴族のお嬢さんで跡継ぎや政略結婚からハズレて冒険者になったとか、それで可愛いんでしょ? しかも姉妹!? 属性盛り過ぎなんで!!」


「ほんとほんと、それに一切手も出さず、別れの挨拶もちゃんとしないで去るとか、絶対その子達ずーーーーーーーっと引きずりますよ?」


「そ、そんなわけないだろ!?」


「あーーー、自分が何やったか全然解ってないんだから兄貴は」


「残酷な人だ……」


 それから二人やパーティーのメンバーにとくとくと説教をされてしまいました。

 仕方ないじゃないか、そんな、女性の心理とか、学ぶ機会も、興味も対してなかったんだから……


 宿場町の酒場は騒がしく過ぎていくのであった…… 

 

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