28杯目 思い出

「まぁ、珍しくもない話だ……」


 俺の産まれた村は小さな村だった。

 と言っても、実際の記憶はほとんどない。

 たぶん普通の両親だったと思う。

 普通に俺のことを大切に育ててくれて、普通に生きている普通の人。

 魔物が村を襲うことだって、別段珍しくもない。

 俺は、きっと強運だったんだろう、冒険者によって救われて、そして教会で生きていくことになった。

 厳しくも優しいシスターのもとで、10歳から12歳まで冒険者ギルドで学び、階位を上げた。

 身寄りのない子供にとって階位をあげることで自立を可能にする、選択肢が増える。

 俺も小さな何でも屋みたいな仕事をこなしながら身体を鍛え、少しづつ冒険者らしい仕事もこなせるようになり、パーティに参加したり、平凡でよくいる冒険者として20代後半に階位が2になった。それからも分をわきまえて安全に仕事を続け、あるパーティに参加して大型魔物を討伐し、カッパーになることが出来た。

 それからは消化試合のようなもんだ。引退までを逆算して、引退後に生きていくための蓄えと、その日の糧を得るためにせっせと毎日仕事をしていく。10年以上そんな暮らしをしていた。


「なんか、話すと本当に、何もない歴史だな……」


「そんなことはないと思う。それだけの間、ソロを中心に冒険者としての仕事を続けていくことは、一切の手抜きも油断もなく真摯に仕事と向き合い続けてきたから、それは尊敬に値する、十二分に」


「生活に染み付いちまってるからなぁ」


「それが凄い、私なんて未だに準備を忘れたりしてよくケイトに叱られる」


「私もぉ、ついつい気が抜ける時もあってぇ」


「その積み重ねが今のゲンツさんなんスね」


「ベテランの深み」


「貴重なお話を伺えて、改めて胸に刻みましたわ」


「まぁ、だから、今回の一連の幸運……って言っていいんだろうな、与えられた時間は、冒険者らしく生きていきたいんだ」


「応援してます」


「私も」


「皆応援してますよぉ」


「はは、ありがとう。本当に、君たちは若いのにしっかりしてるし、これからの活躍が楽しみだ」


「ゲンツ、お父さんみたい」


「年齢的にはそうだろ、これから多少ずれてくるがな、それは君たちもだろう」


「冒険者の生きづらさ、贅沢な悩みだな」


 階位があがると肉体の進化により老いは緩やかになり寿命も伸びる。

 俺でも、たぶん150歳くらいまで生きることになるんだろう。

 若い蒼き雷鳴のメンバーだと200年位は生きる。

 そうなると、普通の人間と明確な差が出てくる。

 それらの問題によって生じるある種の生きづらさをそう呼んでいる。


「ま、冒険者らしく生きていれば、そんなものも感じない。

 むしろ、時間に余裕が出来て思いっきり楽しめる!」


「ほんと、ゲンツさんは冒険者ですね」


 いつの時代も夢やロマンは心を踊らせる。

 この世界は広い、そして人間は弱い。

 結果として人が生きているエリアは非常に狭い。

 未知の大地や場所なんて山程存在する。

 冒険者の中にはそういった未知の場所へと旅をして、大きな功績残すものもいる。

 中には国を起こすほどの偉業を行う冒険者だっている。

 まだ見ぬ土地で、未発見のダンジョンを見つけ攻略し、莫大な財産を得ることだって有る。

 もちろん、危険だって隣り合わせだ。

 今ギルドでも確認していないような強大な魔物によって命を落とした冒険者は星の数ほどいる。

 それでも冒険者が未知の地へと旅立つのは、そこに夢があるからだ。


 俺達は、過去の英雄や冒険者、現在話題の冒険者の実績などの話で大いに盛り上がる。それらの先人たちの姿に、未来の自分たちの姿を重ねて、皆、胸を踊らせながら楽しい会食を楽しんでいく。


「それにしても、ここでさえこれだけ食が豊富なのに、凄いところはもっと凄いんだよな?」


 今日の食事は串焼きが中心だ。

 様々な食材を楽しむのに串で刺して焼くというのは目にも楽しいし、味付けをそれぞれ変化させたりと、舌にも楽しい。

 肉と野菜を組み合わせたり、魚介を楽しんだり、野菜だけでも十分楽しめる。

 変わり種としては果実などを焼いて楽しむのも有りだ、いくつか南国の珍しい果実が合ったので、それも頼んでいるが、焼くことで酸味が抑えられ甘みが強くなり、そしてジューシーになって、食事の間に食べると口もスッキリして新たなお口で食事をもう一度楽しめるようになる。

 ブターの肉とパインーの実なんかは定番の組み合わせで、たっぷりの脂身が果実と合わさると嘘のようにさっぱり、それでいて味わい深くなるので好きな人も多い。特に女性に人気が高い。


「そうですねぇ、例えば東の国では魚介だけが産出するダンジョンがあって、その深部から出る食材は貴族や王族の間で高値で取引されるほどとか?」


「あー、それなら北の山脈を超えた先には野菜だらけのダンジョンも有るらしいっすよ」


「砂漠の国のスペシャルブターも喰ってみたいなぁ」


「私は南の果実」


「そういえばギューの乳や砂糖を使った菓子も素材がいいと別レベルになると伺ったことがありますわ」


「やっぱり美味いもん食うのが一番の楽しみだからなぁ……」


「ところでゲンツさんは次はどこへ行く予定なのですか?」


「まずは、南かな、これから寒くなるしな、それに冒険王ジャスタールの国にはずっと行きたいと思っていたから、まずはソコまでの旅を楽しむよ」


「ジャスタール、普通に行って3ヶ月ってところですねぇ」


「まぁ、途中の街でもゆっくりやっていくからな、1年ぐらいはかかるんじゃないかな?」


「ふぅん、そうか」


「なるほどなるほど」


 皆がなにやら悪い顔をしている時。俺は気がついていなかった。

 いつの間にか隣のテーブルにヒロル達が座っていて、俺の話を事細かにメモしていたことを……




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