27杯目 別れと旅立ち

 俺はしばらくダンジョンなどの冒険者活動はお休みとなった。

 守り手との戦闘でのダメージの回復と、なにより相棒を万全な状態にするための時間が必要だった。


「水を差した詫びだ」


 ドグ親方の使いが来て、猪突猛進は今ドグの手で整備してもらっている。

 ただ、暇な訳では無い。

 俺にとって次の行動への準備と、守りて攻略後の報酬などを蒼き雷鳴のメンバーと話し合う必要があった。ギルドの一室でギルド員と一緒に査定と分前を話し合う。


「魔道具は鑑定の結果マジックカーペットと魔石融合庫だった」


「やっぱり空飛ぶ絨毯かぁ、魔石融合庫はいいな」


 マジックカーペットは魔石に含まれた魔力を利用して使う移動のための魔道具だ。

 非常に便利で馬をも超える速度でどんな山道だろうがスイスイと進める。

 問題は燃費だ。魔石を消耗していくので、非常にコストが掛かる。少なくとも冒険者だったら馬や馬車でいいってなる。金持ちがアピールで使いたがるので需要は多い。

 魔石融合庫は内部に小さな魔石をたくさん入れておくと、それがゆっくりと集まってサイズの大きな魔石に変化させることが出来る魔道具だ。

 これは便利で、価値のないような砂みたいな魔石をとりあえず入れていって普通に使いやすい魔石へと変えることが出来る。時間は結構掛かるが、とりあえず突っ込んで放置しておけばいい。時間停止の効果のある収納袋の内部でも魔道具なので加工を続けてくれるという嬉しい機能もある。正直欲しい。小銭稼ぎにぴったりだ。

 大きな魔石を作るのはそれに対応して膨大な時間がかかるので、本当に木端魔石を売りやすい魔石にするって使い方が正しい使い方になる。


「カーペットが金貨100枚、魔石融合庫は金貨5枚だな」


 どうせ後で分けるので白金貨ではなく金貨で遣り取りをする。


「カーペットは売りでいいな、箱はゲンツさんがいらないならこちらで買い取るが?」


「いや、欲しい。5枚出す」


「ではお譲りしよう」


 6人パーティで共有するには実入りが少なすぎるので譲ってもらえた。やったぜ。


「王冠、錫杖、魔石それぞれ金貨500枚、300枚、200枚」


「ゲンツさん?」


「いや、いらない」


「では蒼き雷鳴で買い取る」


「あ、残りもいらないからギルドに渡しても買い取ってもいいぞ」


「剣の話を聞かなくても?」


「ああ、俺は剣は使わないからな」


「そうですか、確かにこの剣は持つべき人が決まってるようなものですからね……

 紅雷べにいかづちネームドの剣となります」


 紅雷と各種素材や袋を合わせて金貨1200枚の価値があると提示される。


「ふぅ、これで蒼き雷鳴はすっからかんだ。貰おう」


「おめでとうケイト」


「それでは精算をします。買い取りはカーペットのみ金貨100枚、それにゲンツ様の金貨5枚、蒼き雷鳴の2200枚を足して、合計金貨2585枚、7等分で金貨369枚銀貨が2857枚……」


「これで一人370枚にしてくれ」


 ケイトが金貨を5枚足して端数を整える。俺もそれには何も言わない。

 これはパーティリーダーの器量を示す行動だからだ。

 そこにベテランとか年齢は関係ない。


「では、一人370枚、皆さん異論はありませんね……では、契約書を作成します」


 カッパーの冒険者が堅実に10年冒険したのと同じぐらいの稼ぎを得た。


「ふぅ、いつもこれは緊張するぜ」


「我々も外部の人間は初めてだからな、色々聞いておいてよかった」


「これで、ずいぶんと強くなるな蒼き雷鳴は」


「ああ、もう今すぐこれを持ってドグ親方のところに駆け出したいよ」


「応援してるぜ」


 俺の言葉に、蒼き雷鳴の皆が暗い表情になる……

 理由は、わかっている。


「ゲンツ殿」


 ケイトの言葉を手で遮る。

 それで俺の意図は伝わるだろう。


「さ、今日は旨い酒、飲もうぜ」


 その話は、おわり。

 あとは一杯やって解散。

 俺は、態度でそれを示す。


「ああ、そうだな!」


 ケイトもそれを受け入れる。皆も、思うところは有るだろうが、それが冒険者流の別れの挨拶だ。


 蒼き雷鳴はそのままドグ親方の店に向かう。

 俺は、家の後始末などお役所仕事を済まさなければいけない。

 猪突猛進が返ってくるのは3日後、それを受け取ったら俺は、旅に出る。


 市場を一望できるデッキの席に皆が集まった。

 この店は市場から新鮮な食材を用意できるそれでいて財布にも優しいいい店だ。

 正直、もっといい店でもいいのだが、蒼き雷鳴は、今、すかんぴんだ。

 ドグ親方にあれらの素材を使って装備を一新させたせいで、へそくりまでひっくり返したらしい。だから、こういう店でいいんだ。

 俺も、こういう街の雰囲気が大好きだからな。

 日が暮れて、人々が家に帰っていく、そして街で一杯の酒と食事のために再び街へと繰り出す。こういう人の営みに触れていると、冒険者として死と隣り合わせの緊張感から開放されるような気がする。

 今日はよく晴れて空も澄んでいる。

 気持ちの良い風も吹いていて、外で食事と酒を楽しむには最高の日だ。


「では、改めて、蒼き雷鳴とゲンツに、乾杯」


「「「「「「乾杯」」」」」」」


 多くの言葉はもういらない。

 別れの会は、静かに開始された。


「はぁーーー、おいしぃ」


「最高だな!」


「たまにはこういうのもいいな」


 乾杯は発泡ワインにした。

 お手頃でありながら果実の風味の豊かな香り、そしてスッキリした味わい、食前酒として最高の仕事をしてくれる。


「皆は昔からの知り合いなのか?」


「ああ言ってなかったっけ? ここにいる全員、貴族の3女や5女などの集まりだよ」


「なっ!? まじか……」


「今更だが、もちろん礼などいらない。皆貴族としての女を捨てた身だ」


「なるほどな」


 貴族に生まれた女性は、たとえば貴族同士のつながりを強くするような結婚などに、利用されることが多い。もちろんそれを良しとしない人も多く、第一子など名を注がなければいけない不幸な者でなければ外に出る人間だっている。

 貴族といっても実力主義だからな。ただ家が有るだけで継げるものではない、だから貴族に産まれると幼少から厳しく育てられる。それは性別は関係ない。

 蒼き雷鳴が若くして台頭してきた理由を今更ながらに理解した。


「そんなことより、私はゲンツさんの昔話などに興味があるのだが?」


「聞いても別に面白くないぞ」


「いやいやいや、そうはいかない、今日はゲンツさんの全てを話してもらうぞ」


 なんだか、今日は、長い夜に成りそうだ……

 




 


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