24杯目 芽吹き
「た、助かった……ギリギリだった……」
ポーションを流し込む、強い苦みとほのかな甘み、うん、相変わらずまずい。
でも、それでもこの乾ききった喉にはありがたい。
「ふぅ……こいつじゃなかったら、無理だった……あんがとよ」
俺は
ぼろぼろにしてしまったが、ゆっくりと修復されていく、本当に凄い物だ。
「ありがとうゲンツさん、あなたがいなければ絶対に無理だった……」
ケイトが手を差し伸べてくる。俺はその手を掴んで立ち上がる。
「まさかこんなのが出てくるとは思わなかったが……皆が完璧に動いてくれたから、こうして生きて帰れたんだ」
「病的に細かな想定が本当に役に立つとは、驚いた」
病的……?
「ネチネチとしつこい指摘のおかげでぇ、身体に染み付いていたわぁ」
ネチネチしつこい……?
「あの地獄の日々も、今になれば必要だったんスね」
地獄……
「でも、二度とごめん」
「そういう事言わないのミツナギちゃん」
「なんか、お前ら……ふっ、まぁいいか! さーて、この苦労が報われる時間だぞ!」
「ああ、楽しみだ」
部屋の奥に美しい扉が出現していた。
これがダンジョン制覇者に与えられる報酬が秘められた部屋につながる栄誉の扉。
荷物持ちとして参加したパーティで見たことはあったが、自分たちの手で掴んだ物だと思うと、感慨深い。
「さぁ、ケイト、開いてくれ」
「ああ」
この扉を開けるのはリーダーの役目だ。
ケイトに続いて皆で部屋に入る。
真っ白な部屋が淡く光っている幻想的な空間。
その中央に座っている、宝が。
「凄い……」
「綺麗ぃ」
「罠とかは無いっすよね?」
「無いな。それは間違いない」
「ケイト、早く開ける」
「ああ、わかった」
美しく装飾された宝箱を開く。
中にはたくさんの宝が入っていた。
キングゴブリンの王冠
キングゴブリンの錫杖
キングゴブリンの魔石
金貨280枚
魔道具 絨毯?
魔道具 箱?
収納袋 容量:中
収納袋 容量:中
ミスリルインゴット 5
隕鉄インゴット 2
精霊の紬糸 5
魔武具 剣?
「す、ごいな……」
「ああ、ミスリルインゴット、初めて見た」
「これを使えば、すげー装備作れるよな」
「魔道具が2個もぉ、早く鑑定してもらいたいですぅ」
「それに、この剣……凄い力を感じる。鑑定が楽しみだ」
「これがダンジョンを制覇した報酬か……噂通り、凄まじいな」
「収納袋、ありがたい」
「ケイトさんしかなかったから、これでさらにリスクを分散できますね」
「よし、箱も回収したな。奥から上に出れる。帰ろう」
奥に在る柱、転移装置と同じだが、転移石などがなくとも地上へと移動できる。
これを使ってダンジョンを出ることで、ダンジョンを制覇した証が刻まれる。
不思議なもので、荷物持ちや守り手との戦闘をこなさなかったメンバーはダンジョン制覇の証がつかない。多分階位のパワーレベリングを防ぐために神が監視していると言われている。パワーレベリングとは、強いメンバーが弱いメンバーの代わりに強力な敵を死ぬ寸前まで弱らせて、弱いメンバーにトドメを刺させることで経験を強引に積ませる方法なのだけど、正直、ストーンからカッパーくらいなら意味が少しあるかもしれない……って程度で、そういうズルは出来ないようになっている。
転移し、地上に出る。
とんでもない長い時間戦っていたような気がするが、夕方前だった。
ギルドカードを確認すると、ダンジョン制覇の記載が浮かび上がっている。
そして……
「ああ、わかる。芽吹いた」
「華開く時が楽しみだ」
「久しぶりの感覚ねぇ」
「やっぱり、大きな事やると起きるっすね」
「やったな、全員か?」
「うん」「私も確かに感じます」
全員に階位上昇の息吹が芽吹いた。
階位を上がる普通の段階は、この芽吹きを感じ、そしてさらに経験を積むことで開花し階位が上がる。
俺の上がり方がおかしかったんだ。
正直、二度も芽吹きの感覚をすっ飛ばしてしまったのは、寂しくもある。
この芽吹きから開花までのドキドキワクワクは冒険者の最大の楽しみの一つだ。
「今更だと思うが、無茶するなよ。芽吹きの時期にやらかす冒険者は」
「わかっている。大丈夫だ」
「耳にタコ」
「ははは、すまんすまん。心配でな」
「それでは、蒼き雷鳴、凱旋と行こうか!!」
「「「「「「「おおーーー!!」」」」」」
街への帰り道、自分たちの成し遂げたことを少しづつ実感する。
じわじわと喜びが湧き上がってくる。
そして、俺よりも、芽吹いた皆は……
「いいぞ、叫んでも」
「……うおおおおおおおおおおおおおお!!!
やったぞぉーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「やった!!! シルバー!!!」
「信じられないわぁ!!」
「私、最強」
「ひゃっほーーーい!! 嬉しすぎるっす!!」
「神よ、神よ、感謝いたします!!!」
喜びを爆発させ、踊り、歌いながら帰路につく。
この瞬間は、本当に冒険者をやっていて、幸せだと感じる。
しかし、同時に、彼女らとの別れと、俺の旅立ちも意味している……
それから、ギルドへの報告、ダンジョン産の道具の鑑定などを依頼し、もう一つの幸せを感じに行く。
「おめでとー!!」
「やったな!!」
「さすがは蒼き雷鳴!!」
ギルドでの称賛と歓迎だ。
冒険者にとってダンジョン制覇は一つのステータス。
冒険者同士でそれを祝うのが習わしだ。
そして……
「今日は我々のおごりだ、好きに楽しんでくれ!!」
冒険者ギルドを上げて大宴会になる。
このために守り手に挑む場合は事前にギルドに通達する……余談だが、守り手に敗れた後のギルドの空気は、本当に重く辛い。だからこそ、守り手を倒せる実力の有るものしかギルドは挑戦を許さない。蒼き雷鳴は単独での挑戦は許されなかった。
無申告で守り手に挑むと、ギルドからペナルティが課される。かなり重い。
まぁ、暗い話はそれくらいにして、この日には街中の飲食店がここぞとばかりに出店をだして、街を上げてのお祭り騒ぎになる。
ダンジョンから得る宝の一部はギルドに上納される。
ダンジョン制覇時に得られる宝箱は、素晴らしい装飾自体もそうだが、絶対に破壊が出来ない万全のセキュリティの魔道具でもあり、国家権力級の魔道具などをしまうのにこれ以上のものが無い。登録をした人にしか絶対に開けることのできない(死亡するとリセットされるが)魔道具として、目玉が飛び出るような値段がつく。また、解体して収納袋 容量大 時間停止 を作ることも出来るので、常に需要が途切れることがない。
この売買はギルドでしか行えない事になっており、ダンジョン制覇の上納はこの宝箱によって成される。つまり、ギルドに莫大な利益をもたらす事になる。
これも不思議なことだが、適正な階位の物が、適正な階層のダンジョンを制覇することで魔道具の宝箱が得られる。つまり、雑魚狩りのように圧倒的力のパーティが浅いダンジョンを制覇しても、報酬がしょぼくなる。うまく出来ている。
しょぼいと言ってもまぁまぁ稼ぎになるので、そういう浅いダンジョンを渡り歩いて稼ぐパーティもいる。堅実と言っていい。
なんにせよ、ギルドのおごりで大騒ぎするこの場に居合わせること、そして、その主役側にいることは冒険者の最高の瞬間だ。
そして、このお祭りで、蒼き雷鳴から重大な発表がされることになった。
俺は宴の前に病院送りになった……
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