23杯目 決着
「まだ数が多いっ!!」
俺に群がるゴブリンの兵士たち、王を護りたいという意識を俺にぶつけてくるかのように苛烈に襲いかかってくる。
大技を2発連続で放ったせいで、俺も身体が重い。
数々のドーピングを重ねて手に入れた勝利への道筋、それを示し続けるのが俺の役目だ。俺が若人の舞台を汚すわけにはいかない!
「気合を入れろゲンツっ! おらぁ!! かかってこい!!」
降り注ぐ弓、迫る魔法、そして途切れることのない斬撃……
俺は、そんな生と死のギリギリの戦場の中に身を起きながら、冷静に状況を見ていた。そして、思い出していた。
フェイナさん程じゃないな……
ゴブリン達の攻撃は、フェイナさんのあの攻撃に比べれば、大したことがない。
あれを見ていたから、それに気がつけた。
ありがとうフェイナさん……
苦し紛れに藪から棒な対策ではなく、見て、計算して、動いて対応する。
身体から無駄な力が抜け、軽く感じる。
避ける動作は最小限、流れに合わせて攻撃する。
ふぉんっ……猪突が風を切る音、ヒュンっ、間近を攻撃が通る音、ゴウッ、魔法が爆ぜる音、それらが混じり合い、まるで音楽のようだ。
そうだ、フェイナさんの戦いはまるで踊りのようだった。
高いレベルの神の加護を受けた人間の戦闘は、まるで踊っているように視える。
これは、多くの人が語っている話だった。
無駄のない動きを突き詰めていくと、美しささえ感じる舞踊へと昇華していく、今、俺が感じているのは、そういう世界に足を踏み入れたということ……
俺自身がそれを知るのは、まだ少し先になるのだが……
敵の攻撃が激しくなるほどに俺の思考は澄んで行く、視野も広がっていく。
それでも当然、どうしようもない事も起きる。
最善の選択を取っていても喰らってしまう攻撃だってある。
できる限り被害を小さく、戦闘継続を可能にしながら行動していく。
歩兵を弾き飛ばして背後の弓兵の列にぶつけて魔法使いを2体葬れる。
そのまま背後の歩兵に振り抜いて矢を避ける。
魔法の処理が近くなってダメージを受けてしまうが、それを無理に避けると足を斬りつけられてしまう、防御はそちらを優先だ……
ケイトたちは、うまくやれているだろうか……
大丈夫、絶対に、大丈夫だ。
油断するな、その剣の攻撃、毒だ。喰らうな。矢は肩で受けるしか無い、こっちは毒はない、その次の矢はだめだ、毒だ。
魔法が来るぞ、大丈夫、猛進なら耐えられる。
俺は、踊り続けていく……
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【ギャアァ!!】
おおよそゴブリンの攻撃とは思えない強烈な一撃が頬をかすめていく。
私の剣でこの攻撃を受けることは出来ない。
サルーンの大盾もすでにボロボロになっている。
皆の援護がなければもう3度は死んでいるな。
ハハハ、恐ろしいな。
ゲンツが大型魔物と対峙した時も、きっとこんな気持だったんだろう。
すごい人だ、あの人は、本当に尊敬に値する。
私は、仲間がいてかろうじてこうして対峙出来ている。
まだ、あの人の域にはとてもたどり着いていない。
だってあの人は……
「カッパーでそんな化け物じみたことする、変人だもんなぁ!!」
サルーンに迫る攻撃を防ぐためにキングに全力で斬りつける!
ギィンと受けた盾を弾き飛ばすことに成功した。
ドンッドンッっとミツナギの魔法がキングに命中し、その隙に距離を取る。
素晴らしいタイミングだ。
以前から我々は良いパーティだったと思う。
しかし、今は一つレベルが変わった。
今もこうして一言も発すること無くお互いがお互いのしたいことを行い、そして、自身の役目を理解して実行している。
ゲンツは、あいつ、まじで容赦が無い……
「ほんと、ダンジョンの中では厳しいんだよぉ!!!」
「少しは手加減しろっってんだ!!」
サルーンも叫びながら攻撃している。
思わず笑ってしまいそうになる。
ゲンツは、細かい、本当に細かい。
少しの気の緩み、判断の間違い、動きの間違い、すべて指摘される。
どこまで戦闘中に見えているんだよ、本当に。
問題点が改善するまで、何度も何度も何度も繰り返し同じことをやらされる。
「しつこいのよぉ!!」
「くどい!!」
「み、みなさん!?」
「その話は何度も聞いたっす!!」
「できない自分に腹が立つっ!!」
「うるさいっ!」
「お陰で肌がぼろっぼろになったのよぉぉぉ!!」
全員が、この極限状態をゲンツへの怒りで繋いでいる。
「悪いが、八つ当たり、つきあってもらう!!
双龍斬っ!」
「潰れろぉ!! シールドプレスっ!!」
「皆、やるっす! ポーションピッチャー!」
「重くなれ、
「腕と足と肩と腰回りが、ごっつくなっちゃいました!!
ホーリーライト!!」
それな……
「別にっ!!」
「女の子扱いをっ!!」
「してほしいわけじゃっ!」
「無いけどっ!」
「私達はっ!!」
「女の子!!」
「なんだよぉぉぉ!!」
「うおおおおおおおおっっっ!!!!」
全員の気持ちが一つになり、完璧な攻撃がキングゴブリンの分厚い装甲を貫いた。
グシャ……
ゴブリンの王は大地に突っ伏し、そしてダンジョンへと呑まれていく。
「やった、やったぞ!」
「やったんだ! 本当に私達で!」
「つ、つかれたぁ……」
「もう、動けないっす……」
「ゲンツ」
「そうだ、ゲンツさんは!?」
私達の目に、遠くでまるで舞うように信じられない量のゴブリン相手に戦うゲンツの姿が見えた。
目が、奪われる。
美しいとさえ感じる。
彼にはどれだけ見えているのか、それとも、シルバーという階位があの動きを可能にするのか、胸が、熱くなる。あんな戦い方をしてみたい……
しばらくすると周囲のゴブリンは王の権能が消え、霧のように霧散していき、ゲンツも敵がいなくなると、大の字に倒れていく。
「ゲンツっ!」
「大丈夫ですか!?」
私以外も皆ゲンツの戦いに意識を奪われていたが、糸の切れた操り人形のように倒れたゲンツの姿に正気を取り戻し、駆け寄る。
「……ぜぇ、ぜぇ……やったな……」
あの動きからは想像もできないほど、ゲンツはボロボロだった。
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