……虫?

 ……真奈には、今のうちに今日は一緒に帰れないって連絡をしておこうかな。

 早い方がいいもんな。


【真奈、悪いんだけど、今日は一緒に帰れない。ちょっと急用が出来ちゃったんだ】


 そう思い、俺はそんなメッセージを送った。


【なんで? 用って何? 私も手伝うよ?】


 すると、授業中とは思えないくらいの速さで返信が着た。

 ……他の女の子とデートをする、なんて……昨日デートをしたばっかりの女の子には言えないよな。

 

【俺一人でできることだから、大丈夫だよ】


【なんの用かを聞いてるんだよ? 後、私が手伝わなくてもいいんだとしても、普通に待ってるから】


 待ってて貰っても、俺は結衣とデートに行ってるから、真奈とは帰れないんだよ。

 ……と言うか、俺、めちゃくちゃ浮気を彼女から隠そうとしているクソ男みたいになってるな。

 違うんだよ。流石に、元の世界の一夫多妻がダメな世界に居たら、俺はこんなことしてなかったぞ? この世界だからこそだ。

 そしてこうやって真奈以外の子とデートをするってことを隠しているのは、単純に真奈がヤンデレかもしれないからだ。今はともかく、いつか必ず言って結衣との関係を許してもらうつもりなんだから、大丈夫、なはずだ。


【用はまだ言えないかな。それと、待たなくて大丈夫だから。申し訳ないし、真奈には家で待ってて欲しいからさ。俺の家の鍵を渡すから、帰ったら遊ぼ? 隣同士なんだし、少しくらい暗くなっても大丈夫でしょ?】


 色々と考えながらも、そんな長文を俺は打ち込んで、真奈に向けて送った。


【……分かった】


 すると、たっぷりと時間を置いて、ちょうどチャイムが鳴るのと同時に、返信が帰ってきた。

 今までの返信速度を考えるに、色々と真奈も悩んでたんだろうな。頷くか、無理にでも用事を聞こうとするか。

 ……前者を選んでくれて良かったよ。本当に。


【でも、今から会いに行くから】


【あ、うん。分かった。教室の外に出て、待ってるよ】


【私は別に中で大丈夫だよ?】


 真奈が教室の中に来て、なんの用事があるのかをまた聞いてきたら、結衣が反応しちゃうかもだし、真奈には悪いけど、外の方がいいんだよ。

 そう思って、最後の真奈からのメッセージには気がついていない振りをしてをして、結衣に一言声をかけてから教室を後にした。

 その際、相変わらずと言うべきか、めちゃくちゃ視線を向けられたけど、俺に嫌われたくは無いからか、後はつけられなかった。


「優斗!」


「真奈、さっきぶりだね」


「う、うん。でも、教室の中で待っててくれても良かったんだよ?」


「立ちたい気分だったんだよ。教室だったら、自分の椅子があるし、どうしても座っちゃうからね」


 何となく、それらしい? 理由を適当に考えて、俺はそう言った。

 

「そうなんだ。……ねぇ、優斗、手、握ってもいい?」


「え? あ、うん。いいけど、なんで?」


「……ちょっと、虫が多いから」


「……虫?」


「ううん。なんでもないよ」


 そう言いながら、真奈は嬉しそうに、俺の手を握ってきて、ニギニギとその感触を確かめるように力を入れたり緩めたりしてきた。

 ……ちょっと、怖い雰囲気が出てた気がするけど、可愛いし、まぁいっか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る