デートの少し前に

 あの休み時間は真奈に手をニギニギとされて、抱きつかれたりもしたけど、無事に時間が過ぎて放課後になった。


「結衣、行こっか」


「は、はい!」


 真奈に見つかる前に結衣を学校から連れ出そうと思って、俺は早めにそう言った。

 すると、何故か敬語になられながらも、食い気味に頷かれた。

 ……まぁ、頷いてくれてることには間違いないんだし、早く行こう。


「そういえば、どこか行く場所って決まってたりするの?」


 そして、上手く学校を後にした俺は、結衣と手を繋ぎながら、そう聞いた。


「えっ? あ、ご、ごめん。考えて無かった、です」


「そうなの? なら、一緒に考えよっか」


「い、いいの?」


 元の世界の知識がある俺からしたら、女の子に何でも任せっぱなしって方が顔には出さないけど、ちょっと心的になんとも言えない感じになってしまうし、むしろありがたいくらいだ。

 いいに決まってる。


「もちろんいいよ。結衣と行く場所を考えるっていうのも楽しいしね」


「ゆ、優斗くん……き、気持ち悪いかもしれないけど、抱きついちゃダメ、ですか?」


 そうして、あんまりこの辺に何があるのかを知らないながらも、スマホで調べたりして、どこに行こうかと考えようとしていたところで、結衣はこれでもかというくらい顔を耳の先まで真っ赤にして、そんなことを言ってきた。


「ご、ごめん! や、やっぱりなんでもないよ……じ、冗談だから、気にしないで?」


 俺が頷くよりも先に、結衣は自分が相当気持ち悪いことを言ってしまったと思ったのか、今度は顔を真っ青にして、冗談だと強調するように下手な笑顔を作って、そう言ってきた。


「結衣、勝手に取り下げないで?」


「ぇ?」


「もう結衣に抱きつこうとしてたのに、今更冗談だった、なんて言われても、俺、我慢できないよ?」


「ぇっ、ぁっ、ぁぅあ」


 わざとらしくそう言って、結衣のことを抱きしめると、結衣は少し前みたいに顔を赤くしながらも、喜んでくれているのか、結衣の方からも少し俺が痛いくらいに抱きしめてくれた。

 赤くなったり青くなったり大変だとは思うけど、結衣の地雷系の見た目のおかげで、それもギャップになって、めちゃくちゃ可愛く見えてしまう。

 ……まぁ、結衣はメイクをしていなくたって、どう考えても美少女だろうけどさ。


「よしよし、結衣、可愛いよ」


 そんなことを内心で思っていたからか、俺は結衣の頭を撫でつつ、そんなことを口走ってしまっていた。

 ……やばい。つい頭を撫でて、可愛いなんて言ってしまったけど、大丈夫か? 

 俺への結衣の好感度は相当高いと思うし、そういう面では大丈夫だと思うんだけど、無自覚な人間はこんなこと、するか? ……俺はそういう面が一番心配なんですけど?


「ぁ、ゆ、優斗くん……」


 ……今の結衣の様子を見る限り、大丈夫そうかな。

 嬉しさと恥ずかしさが織り交ざったような感情が透けて見えてるし、そのせいかもだけど、取り敢えず、大丈夫そうだし、別にいいか。

 俺も結衣みたいな美少女に触れられるのは嬉しいし。


「好きぃ……」


 そうして、結衣のことを抱きしめながら、頭を撫で続けていると、小さくはあるけど、確かにそう言っている結衣の声を俺は拾ってしまった。

 ……今のは多分、俺に言うつもりの言葉というより、気がついたら出てしまったっていう言葉だろうから、聞こえてなかった振りをしても大丈夫だよな。

 ちゃんと責任は取るつもりだけど、まだ早いと思うし。

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