第6話 授業開始

 二日後、シエラとシャーロットが屋敷の地下で向かい合っていた。今日から本格的に授業が始まる。

 シャーロットの目はやる気に満ちており、その様子にシエラも満足そうに頷く。

 早速黒板を用意し、チョークを手に持って簡単な説明から書き始めた。


「さて、早速今日から授業を始めていくわけだけど、先にいろいろと説明をしておくね」

「よろしくお願いします!」

「いい返事。あ、成績次第ではご褒美もあるからね。そういうのがあった方がやる気も出るだろうし」

「私はご褒美なんかなくても……」

「本人がそう思っていても、やっぱりあるのとないのじゃ効果は違うものよ。順調であれば町に行ったときに好きなものをなんでも買ってあげる。でも授業に支障が出ないようにね」


 当然、とばかりにシャーロットが頷いた。

 物分かりがいいのはシエラの見込み通り。これならこの先も特に困ることはないだろうと思う。


「次に、覚えた魔法や得た力は自由に使って大丈夫だからね。先日も言ったけど世界を滅ぼすなんて言い出したらさすがに止めるけど、私を倒せるのならそれも好きにしていい。魔法使いは基本的に自由であるべきだからね」

「絶対にしませんから!」


 シャーロットの反応が面白くてついからかってしまう。

 笑った後、シエラは最初の説明として黒板に魔法使いの等級を書きだした。


「じゃあ早速始めていくよ。最初に話しておくべきはやっぱり魔法使いの等級かな」

「等級、ですか?」

「そう。簡単に言うとその魔法使いがどれほど強いか、どれだけすごい功績があるかを分かりやすくしたようなものかな。上級、中級、下級に分かれていて、上級はその中でも特級、一級、二級、三級に分かれてるんだ」

「先生のような特級魔法使いを頂点として、下に一級、二級と続いていく感じでしょうか?」

「その認識で正しいよ。にしても、私が特級魔法使いなのは説明不要か。まぁ、私は事情が事情だから実名を使っていろいろやるのは難しいんだけどね。でも、役割をきちんと果たせる手段はあるから安心して」

「役割?」

「そう。魔法使いは誰でも等級を自称できるわけじゃないの。大体は試験に合格することでその等級を名乗れるようになるんだ。そして、始まりの下級魔法使いになるためには魔法使い協会への登録申請に上級魔法使いの名前が必要だから、最初はそういう魔法使いに弟子入りして課される試験を突破することから始めるの。まぁ、試験を課すのも義務じゃないから試験もなしにいきなり下級魔法使い申請を認めちゃう魔法使いもいるんだけどね」

「先生は当然、試験を課すんですよね?」

「そうだよ。私の試験を合格して、下級魔法使いになるのがシャルの最初の目標ね」


 シエラの言葉にシャーロットが力強く頷く。


「で、続きね。中級魔法使いになるには、協会が指定する学校の卒業試験に合格しなくちゃいけない。こういった学校はどこも下級魔法使い以上が入学条件なの」

「なるほど。そして、中級になれたら三級魔法使い試験に挑めるんですね?」

「惜しい! 三級の受験資格は中級もしくは下級魔法使い。よほど腕に自信があるなら中級をすっ飛ばして三級に挑むこともできるよ。試験内容は中級になるための卒業試験を発展させたものが中心だから下級でいきなり挑戦する人は珍しいけどね」


 黒板の内容と話す内容をシャーロットは急いでメモにまとめていく。

 最初から前向きな姿勢で授業を受けてくれるシャーロットを見ていると、シエラもだんだんと嬉しくなりそして楽しくなってきた。

 これで、大まかな等級についての話は終わりだ。次に進もうと思う。

 だが、その次に何を話すかは少し考える。そして、ふと初日と先ほどシャーロットが一瞬だけ表情に差した影のようなものについて気になったため、もしかするとそれがシャーロットが魔法を学ぶ理由かもしれないと思い、そこから何を教えていくかを決められるかもと考えてチョークを置く。


「シャル、一ついいかな?」

「なんですか?」

「シャルは何のために魔法を学びたいと思っているの? よければ聞かせてほしい」


 そう聞かれたシャーロットはすぐに答えようとするも口を閉ざしてしまう。一瞬の逡巡の後、意を決したように再び口を開いた。


「復讐のためです。私を捨てた両親のことは絶対に許せない」


 空気が冷えた気がした。シャーロットの可愛らしい容姿からは連想できない物騒な言葉が飛び出す。

 刹那の沈黙が流れ、シャーロットは少し怯えたようにシエラを見つめた。


「幻滅しましたか?」

「いいや、ちっとも」


 不安にさせないように笑顔で返す。

 元々、シャーロットが魔法を負の面で使おうと考えている事は分かっていた。シエラがこれまで使った魔法に対する反応と目の動きを見ていれば自然と答えが見えてくる。

 それならば、とシエラは最初に教えるべき事について決定した。


「復讐のために魔法を使うのなら、中心になるのはやっぱり攻撃魔法だよね。じゃあ、攻撃魔法に深く関連するのはもちろん、他の魔法にも関係する魔法の属性について話していくよ」


 魔法の基礎を教えるのに、この属性の話はちょうどいい。

 シエラが再びチョークを手に取ったのを見て、シャーロットもペンを持ち真剣に話を聞こうとしていた。

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