第7話 魔法の属性
属性について話すため、シエラは最初に大きな二つの円を描いた。
「まず魔力には根源となる二つの属性があるの。それが光属性と闇属性。これらは生まれた瞬間に属性が決定される。ここで注意しなくてはいけないのが、世間一般に広まっているこれらの属性についての勘違いね」
「勘違い、と言うと?」
「闇属性は悪、なんて聞いたことない?」
「あれ間違いなんですか!?」
聞かされた衝撃の事実にシャーロットの開いた口が塞がらない。
まだ幼い頃、父の書斎で読んだ魔法の体系書には光の魔法のみを使い、闇は使わないようにとの記述があったことを思い出す。
「じゃあ、どうして闇が悪いなんて……」
「簡単な話よ。この世界に住んでいる生物のほとんどが光属性の魔力を持っているの。で、こう言うとシャルは分かったかもしれないけど、闇属性魔力を持つのは魔界に住む魔族が多いのよね」
「あぁ、なんとなく分かったかもしれません。闇属性魔力を有している割合は魔族が圧倒的だから、人類と敵対している魔族の闇属性が悪だと広まったんですね」
「そういうこと。結局は魔力を有している者の心のありようなの。今まで闇属性魔力を持つ魔族が人助けをしているのも見たことがあるし、光属性魔力を持つ人間の王様が魔王もドン引きの恐怖政治をしているのだって見たことある」
「うわぁ……あ、そういえば、私や先生の属性って……」
「シャルのは調べてみないと分からないけど、私は闇属性だよ。どう? 悪者に見える?」
「全っ然見えないです! なるほど間違わないように注意します!」
「試験にはこういうの出ないから安心して。でも、もしかすると一級以上の試験は今から言う両属性の特徴は出るかもだから、覚えておいて」
そう聞いてシャーロットはすぐに紙に向かってメモできるように待機する。
シエラもそれを待ってから、黒板の空いた場所に説明を書いていく。
「闇属性は、主に攻撃魔法や精神干渉魔法等といった黒魔法と分類される魔法の威力を向上させる。で、光属性は、主に回復魔法や支援魔法、妨害魔法等といった白魔法と分類される魔法の威力を向上させるの。錬金術や転移魔法みたいな黒でも白でもない別魔法と分類される魔法には影響がないからね」
この特徴を知ることで、自分に合った魔法使いとしてのスタイルも自ずと見えてきて、どういった道を極めるのが向いているのかということも知ることができる。
もっとも、光だろうと闇だろうとシャーロットのように攻撃魔法を使いたい者、反対に回復魔法で誰かの助けになりたい者などにはあまり直接的な関係のない話ではあるが。それでもこの違いを知っているのと知らないのとでは後々大きな違いとして必ず出てくるとシエラは思っている。
「覚えることが多いんですね」
「そうだね。でも、大変なのはまだまだこれからだから」
「……え?」
「今のは魔力の属性だからね。ここからは魔法そのものに付随する派生属性と呼ばれる属性について説明するよ。この派生属性だけで光と闇以上の内容になるんだから」
分かりやすく怯えるシャーロットを見て意地悪げな笑みを浮かべたシエラは、容赦なく派生属性について説明するための図柄を黒板に描いていく。
シャーロットは目を回しながら必死にメモを取ろうとしていた。
「派生属性は大きく分けると六つ。炎、風、水、土、雷、無属性があって、ここからさらに細かく派生される。まぁ、この六つだけを覚えておけばいいよ。水の派生で一例を挙げるだけでも氷や霧、霞があるからね。その先は覚えるのが馬鹿馬鹿しい」
「分かりました」
「さて、この派生属性には相性というものが存在するの。魔法戦において、この相性は基本中の基本だよ。相手に有利な相性をぶつけ、自分が勝てるように盤面を整える」
「言い換えれば、相手の属性を見極めて不利にならない魔法を選択する状況判断能力も大切だと?」
「理解が早いね! そういうこと。ちなみに、あえて自分が得意な属性で攻めることができるよう、相手に偽の情報を掴ませる心理戦も慣れておくと役に立つかもね」
「なるほどです。……でも、それなら後出しのほうが強いって事になるのではないでしょうか?」
「そういう考え方もある。でも、これは雷の攻撃魔法に多いけど攻撃速度が凄まじく早いものがあるからね。後出しに固執すると見極める以前にやられちゃうよ」
加えて、先に相手を不利に陥れるような属性の魔法を放つことで、その後の戦況を上手くコントロールする起点にすることもできる。
先攻後攻のどちらが強いということはない。どちらがどういう風に仕掛けても技量次第で対処可能だし、相手に先出しをさせたり自分が先出しをしたりすることに執着すると決まって痛い目に遭う。
以上の注意点もしっかりメモを取らせ、シエラは黒板に矢印を書いてそれぞれの属性を結ぶ。
「で、これが派生属性間の相性になるわ」
「炎は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強く、水は炎に強く、無属性は相性の有利不利が存在しない……頭がこんがらがりそうです……」
シャーロットの言うとおり、最初のうちはこの相性を覚えるのは難しいことだろう。
だが、魔法の打ち合いになったときに相手が有利な属性を使い続けては勝ちはない。時間をかけてでも覚えるべき内容だった。
シャーロットは自分なりに分かりやすいよう印を付けながらメモを取る。
シエラは、これは後日シャーロットが復習に使うだろうと思い、属性について書いた黒板は残したまま別の黒板を用意した。
属性についてはこれで大体は話し終えたように思う。
シャーロットのメモが一段落するのを待ち、ペースは早いがシエラは次の内容に移っていった。
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