第5話 屋敷の案内

 食事を終え、洗い物も魔法で終わらせてからシエラはシャーロットに屋敷の案内をすることにした。

 最初に連れて行くのはキッチン。

 理由は簡単。すぐそこ、というより目と鼻の先だからである。


「ここがキッチンね。そこの戸棚に食器、こっちの魔道具には食材が入ってるから。シャルが当番の時に足りなくなったら言ってね。買ってくるから」

「はい!」


 ここは簡単な説明だけで良いなと判断する。

 もし分からないところがあれば後で教えてもいいし、に説明を頼んでもいいなと考えていた。

 キッチンから離れ、横の扉から屋敷の裏にある家庭菜園に出て行く。

 家庭菜園とは言うが、野菜だけでなく豚や牛をはじめとする多くの家畜を飼っている厩舎や、多くの種類の魚が泳いでいる釣り池まである。先ほど足りなくなったら買ってくるとは言ったが、調味料以外はここで事足りるし調味料も別の部屋で作ろうと思えば作れるため、本格的にこの次元から出る必要は皆無なのだ。

 などと思いながら歩いていくと、トマトの手入れをしている女性の姿が見えてくる。

 メイド服を着た女性は、二人に気付いて作業の手を止めた。


「おや、お帰りになられていたのですねシエラ様。……そちらの方は?」

「この子はシャーロット。今日から私の弟子になるのよ」

「そうでしたか。いらっしゃいませシャーロット様」


 スカートの裾を持ち上げ恭しく一礼する。

 ふわりと漂う優しい花の香り。ボブカットの水色の髪から発せられるその香りにシャーロットの気分は落ち着いた。アロマセラピーに似た効果を発揮している。

 と、シャーロットは女性の胸を見て自分の胸に手を置いた。


(シャルはまだ成長途中だし、この子が大きいだけなんだけど……)


 などと、シエラは苦笑する。


「初めましてですね。わたくしはデューテと申します。このお屋敷で働いているメイドですわ」

「シャーロットです。よろしくお願いします」

「デューテは最高位の契約精霊ブラウニーなの。でも、他のブラウニーたちをまとめるメイド長として召喚したはいいんだけど、この子って家事はほぼできなくて困りものなのよ。戦闘能力は高いから、メイド長と言いながら禁庫と家庭菜園の管理を任せているんだ」

「お褒めにあずかり恐悦至極」

「私の言葉をどう捉えると褒められたという認識になるんだろう?」


 漫才のようなやりとりに、シャーロットがキョトンとした表情を浮かべた。

 だが、それも一瞬。今のやりとりの中に気になる単語があったシャーロットは早速そのことを質問する。


「先生。禁庫って何ですか?」

「やっぱりそこに食いつくんだ。……そうだね、紹介しよう。デューテも来て」

「はい」


 家庭菜園から屋敷に戻り、階段を上がって四階まで行く。

 四階の奥にある黒い扉の大部屋。そこが禁庫だ。


「ここが禁庫だよ。ここには、私が預かったり集めたりして封印した絶大な力を発揮する魔道具を置いてあるの。国一つを丸ごと吹き飛ばすような魔水晶や、最上位の悪魔を無条件に召喚して使役するもの、邪神の眷属由来の品まであるからね。危険だから決して立ち入らないように」

「は、はい……分かりました……」


 説明を聞いたシャーロットが震えている。

 さすがに少し脅かしすぎたかと思うが、このくらいは適切だ。それだけこの部屋に置かれた物は危険すぎる。万が一外に流出すれば、世界のパワーバランスが崩壊してしまうほどのものばかりだ。


「わたくしが中にいるときは扉をノックしてもらえれば応じますので」

「はい! 中には絶対に入りません!」


 すごい勢いで首を縦に振るシャーロット。

 部屋の外にいても危険な気配は感じる。シエラが危険と言うからには確実に死ぬレベルだとシャーロットも理解していた。

 禁庫から離れ、次にやって来たのは普通の部屋だ。

 室内には机とタンス、薄桃色のプリンセスベッドが置かれ、化粧台もあった。まさに女子部屋といった感じの部屋にシャーロットが小さく驚く。


「すごい……」

「ここがシャルの部屋ね。さっき貴女がお風呂に入っている間に急いで設置してみたのだけど……こんな感じで大丈夫かしら?」

「え!? もちろんですありがとうございます!」


 ボロくて臭い野ざらしに近い檻に比べたら天国のような環境だ。文句などあるはずがない。


「じゃあ、今日はいろいろあったし、疲れてるでしょう? 夕食の時間になったら呼びに来るから、今日はもうゆっくり休みなさい。授業は明後日から始めるからね」

「はい! シエラ先生!」


 シャーロットを部屋に残し、シエラとデューテがその場を後にする。

 廊下を二人で歩いていると、しばらくしてデューテが口を開いた。


「彼女、深層魔力がすごいですね。シエラ様に匹敵するほど、いいえ、それ以上あるのでは? もしあれに表層魔力が加われば……」

「間違いなく私以上の魔法使いになるわ。あれだけの才能を腐らせるのはもったいないし、彼女がどこまで強くなるのかは興味がある」

「それはわたくしも同感です。……では、わたくしはここで」


 一礼したデューテが禁庫に入っていった。

 シエラは階段を登り、五階にある自分の部屋に戻る。

 そして、本棚から古ぼけた一冊の本を取り出した。


「さて。当たり前のことだと割愛しないように、私も改めて復習から始めましょうか」


 授業開始に向け、シエラもどんな内容を教えていくか吟味する。

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