7話 「一方その頃」

同刻 人海町 某ホテル


 イッキたちと違い、ルイのグループは問題なくホテルの部屋を取ることが出来ていた。

 現在はルイとパンジー、シドの三人で一つの部屋に集まり、これからの行動計画を話している最中だった。


「えぇ!? で、では……イッキさんとはどこまで進んでいらっしゃるんですの!?」

「いろはにほへとで言うところの……『い』」

「キャー!」


 残念ながら実のある話し合いにはなっていなかった。

 ルイとパンジーはベッドの上で雑談を勝手に始めていて、シドだけが机に向かってパソコンを弄っている。


「ああ! まさかこんな身近に尊い方々がいらっしゃるとは思ってもいませんでしたわ! というかイッキさんが人間だったってのも初耳ですし」

「色々あった」

「ああ……お二人のこれからが楽しみですわぁ。わたくし、陰ながら応援致しますとも!」


 パンジーはウットリしながら頬を抑えて、自慢のツインテールを揺らした。


「……で、シドは何やってるの?」

「いや『何やってるの』って……。そもそも僕らは何しに下界に来たのさ」

「旅行」

「観光?」

「いや課外授業でしょ! 僕はね、授業で学んだ日本の知識から、『信仰』を集める方法を考えたんだ。ずばり! インターネットだよ! 信仰に大事なのは何と言っても知名度だからね。こうしてネットを利用することで、注目を浴びてみせようって寸法なのさ」

「ほほう」

「流石はシドさんですわ!」


 シドがパソコンを弄っていたのは、ネット上で自分のアカウントを作り、広く他人からの支持を受けるにはどの程度のことをすればいいか実験するためだった。

 というかルイとパンジーが話を聞いていないだけで、このグループのレポートのテーマもそれだった。


「……まあいいや。二人にはレポート書くのを頼むよ。日本でのSNSがどれほど布教に効果があるか、僕が実際に試してみるから」

「具体的にどんなことをするんですの?」

「うーん……やっぱりアレかな? 『伝説』を伝え説かないとだよね」

「……『伝説』……」

「いわゆる神話だね。原初の神には当然のように備わってるもの……。神様になるには伝説の一つや二つは人間に知られてないとね」

「シドさんには伝説があるんですの?」

「無いから作るしかないね」

「ほほう」


 シドは早速キーボードをカタカタと叩いて、あるSNS上で文章を作成する。

 ルイとパンジーの二人は、彼の背後からそのパソコンの画面を見つめた。


『☆創造神シド☆

 伝説のその十二。

 四次元迷宮を破壊した僕は、聖人と異人の誘惑に乗せられて、ウィズスロの生み出した虚無の空間に新世界平面を創造したのだった。』


 誇らしげに腕を組むシドに、ルイとパンジーは呆れた視線をぶつけた。


「……意味分からないんだけど」

「面白味も無いですわね……」

「なぬ!? 僕の考えた伝説が……」


 彼は日本に来るまでに自分の伝説を数多く考え出していた。

 残念ながらそこには意味も脈絡も何も無いうえ、荒唐無稽な文字の羅列に過ぎない。


「シド、『いいね』の数が一件も無い」

「? 何だいそれは」

「そもそもシドさんのアカウント、フォロワーが一人もいらっしゃいませんわね」

「今作ったばかりだからね」

「……」

「……」


 フォロワーがいなければ発信した文章を見てもらうことはなかなか出来ない。

 シドの下らない文章など誰の目にも止まらないということだ。


「まずはバズらないとだね」

「ば、バズ……?」

「手っ取り早くいくなら炎上ですわね。燃えましょう! 全力で!」

「え、炎上……?」


 そうしてパンジーはニヤリと笑みを見せる。

 やがて、シドのパソコンは二人に占領されることになってしまった。

 シドの名が悪い意味で人間たちに知られることになるのだが、それはまた別の話。


     *


同刻 人海町 某ホテル


 ルイたちと同じく、レオたちのグループも問題なく宿を取れていた。

 彼らもルイたちも、ここが本来降りる場所だった東京ではないということに気付いていない。


「うーん、どうしてこんなにお金が余るのでしょう? 何か聞いてます?」


 フルティは学園側から預かっていた財布の中身を見ながら頭を傾ける。


「知るか」


 残念ながら尋ねた相手であるレオは無視をしてそっぽを向く。


「ロストさんはどう思います?」

「……ど、どっか別のグループのが混ざったんじゃ」

「ああ、なるほど。ツイてますね。美しい」

「う、美しい……?」


 ロストの読み通り、この金は本来イッキたちのグループのものだった。

 別に美しくもなんともない。


「……下らねぇ」


 そう言って、レオはもう同じ部屋を出ようとする。


「ちょっとレオ君。まだ計画の話し合いが途中で……」

「……俺が適当にレポートまとめとく。あとは好きにしてろ。どうせ任意の課外授業だ」

「え……?」

「じゃあな」


 そそくさとレオはその場を去っていった。明らかに妙な態度だ。


「な、何だろう……あの人どういうつもりで……」

「……これは何かありますねぇ」


 フルティはニヤリと口元を緩めた。

 本来の課外授業の目的は忘れ、レオのことを追いかけようと考え始めていた。

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