『第二話 王城への帰還』じゃ
オガネス王国。
この世界における最も大きく強い国。
王城に帰還すると、たくさんの人たちが出迎えてくれた。
「ありがとう!!」
「これで世界は救われた!!」
「いやいや、それほどでも無いっすよォ~」
オレは真っ赤なカーペットを歩き、王座に向かった。
参列では美女たちがこっちを見てはしゃいでいる。パチンとウインクを返ししてやると、キャーと黄色い悲鳴が上がった。
粒ぞろいだな。ひーふーみよー。
今夜は楽しくなりそうだ。
「皆の者、王陛下のおこしである!」
大臣のひとりが叫んだ。
おっと。
袖から王様が歩いてきた。
ぎしり、と威厳のある所作で王座に腰かける。
「まずはよくやってくれた。勇者クスロウよ」
長いひげを撫でつけながら口を開いた。
「いえいえ。オレは役目を全うしたまでですよ」
「そうは言っても今まで現れた勇者は誰一人魔王を倒せなかった。それをお主は……」
一度口を開くと止まらないがこの王様だ。
相っ変わらず話長えなァ~……。
オレが一人で魔王倒しに行くっつったとき猛反対したくせによ。
オレは適当にそれっぽい真剣っぽい顔をしながら、参列者の女の子たちをチラ見した。
今日はどの子をいただこうかな~。
と思っていると、ひとりの女が目に入った。
ん?
その女は、総じて羨望の眼差しをしている参列者の中で唯一、真顔だった。というか、どちらかというと憎々しげな表情でオレを見ていた。
格好は宮廷騎士か。金髪で身長が高く、鎧越しにもスタイルの良さがわかる。
あーいうお堅そうなのがベッドじゃいちばんエロいんだよなぁ……。
「――というわけだ。ん? どうした勇者。舌舐めずりなんぞしおって」
「あっ」
「貴様! 王の御前で不敬だぞ!」
「あ~すみません、ちょっと戦い終わりでついその、口が乾いてまして……」
「口が乾いたぁ?」と眉を顰める大臣を、まあまあと王がいさめた。
「あの魔王を倒したのだ、その苦労は計り知れない。
そなたの冒険譚を聞かせてもらうのはまた後日にしよう! 今夜はゆっくりと体を休められよ」
「あ、ハイ! ありがとございまーす!」
ちょうど早く服着替えてベッドで休みたいと思ってたとこなんで。
オレはくるりと背を向け、その場を立ち去ろうとした。
「ただひとつ!!」
「えっ?」
そこで王が大声で呼び止めた。
なに?
や、やっぱり女の子チラ見してたのバレてた?
恐る恐る振り返ると、
「ひとつ言わせてくれ」
王は眉間にシワをよせた顔でオレを見た。
その目は涙ぐんでいた。
「本当にありがとう。これで……魔王の犠牲となった者たちの魂も報われる。そなたは間違いなく史上最強にして最高の勇者だ」
「……はァ」
なんだそんなことか。
でもまぁ、そりゃ泣くか。
確かあの王様、息子の王子を四天王の誰だかに殺されてたんだっけ。
「うっ……ウッ……」
見ると、隣でさっきまでしかめ面してた大臣まで泣いていた。
「ルーク大臣……うっ……そなたの娘も報われるな……」
「はいっ……5歳の時奴らにさらわれ……」
お前もかい。
おっさん二人が肩抱き合って泣いとる。
「うっ……」
「ううっ…」
と思っていたら、そこら中からすすり泣く声が聞こえ始めた。参列者までもがみんな目を伏せ泣いている。
おんおんと。オーケストラみたいになってきた。
なんか、思ってたよりこの国の人たち、魔王軍に苦しめられてたんだな。
てことはやっぱり、魔王を倒したオレはとんでもない偉業をなしとげたってことか。
このオレが世界を救った英雄……。
「……うほんっ。えー、みなさん泣かないで!! 今日は魔王が滅んだ記念すべき日ですよ~!!」
オレはつい思い切って、その場にいる全員に向かって声をかけた。
いくつかの人が顔を上げる。
一瞬、授業中ギャグ言ったみたいな不安がよぎったが、ええいままよ!
「みんなで祝いましょう!! 王国の宿願が叶ったこの時を祝いましょう!! そして新たな英雄の誕生を!!」
「――おおおおっ!!!」
一拍おいて、そこら中から歓声が上がった。
参列者が泣きながら拍手喝采を送る。ふんぞり返って座っていた王も、ムッとしていた大臣も揃って喝采した。
「クスロウ!! クスロウ!! クスロウ!!」
オレは溢れんばかりの歓声と拍手を浴びながら、レッドカーペットを歩いて退室した。
ふーっ、疲れたぜ。
これであのバカどもも少しは前向きになるといいけど。
せっかくの
「クスロウ様!」
ふと後ろから声がした。
振り向くと、美しい金髪の少女が立っていた。
「これはこれは王女サマ」
「ご無事でよかった!」
王女は、オレと目が合うなり抱きついてきた。
「本当に魔王を倒してしまうなんて……それにあの演説、とても素晴らしかったですわ」
ぎゅっと豊満な胸を押し付けて言ってくる。
んっふふふふもっと言って。
……じゃ、ねーや。学べオレ。
童貞くさいリアクションは嫌われるぜ。
ここはスマートに……
「……いえいえ。こんな日ぐらい、みんなにはなるべく笑顔でいて欲しいですから」
「……相変わらずお優しいのですね」
王女は恥ずかしそうな上目遣いでオレを見てくる。
「……あの……それでその、お願いがあるんです」
「お願い? いいですよ。王女の願いはこのクスロウがなんでも叶えてさしあげましょう」
そう言うと、王女は頬を赤くして、
「……じゃあ……今夜は……私と……」
「……」
よっっしゃああああああ!!
この時を待ってたぜ!!
国王の娘だから今まで言い寄るのは遠慮してたけど、向こうから来たんだからいいよね?
よね?
「……わかりました。ではオレの部屋に」
オレは王女の手を取った。頬を赤らめた顔でこくんと頷く。
最高だ……。
魔王を倒し、王女と結婚。そしてゆくゆくはオレがこの国の
夢のようなビジョンが叶った瞬間だった。
「んっふっふっふっふっ……」
「クスロウ様? 急に変な声を出されてどうしたのですか?」
「え……あ……いやなんでも」
ウッヒョー!
オレは意気揚々と王女を部屋に連れ込んだ。
オレはこの日、世界最強の武力と権力を手にした。
……そして同時に、最悪の転落の始まりでもあったのだ。
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