『第一話 魔王討伐』じゃ

 魔王軍占領域。

 煮えたぎるマグマに覆われた山頂にそびえ立つ魔王城。



「ついにここまで来たか、勇者クスロウよ」



 とてつもなくデカイ神殿に、すさまじくデカイ魔王が立っている。


「まさかあの四天王すら倒すとは……敵ながらあっぱれだぞ」

「四天王?」


 オレはその巨体を見上げると、後ろを振り向いた。


「ああ……それってェ~さっきの門の前に立ってたやつらのこと?」

「……そうだが」

「あ~、そうかゴメンゴメン、てっきりザコ敵ABCDだと思ってた。殺す前にもっとスキルとか出す暇与えた方が良かったかな」


「てか、そんなことよりここ立地悪くね?」オレは汗ばんだ服の首元をパタパタさせた。


「なんで火山の噴火口に城建ててんだよ。バカじゃねえの?」

「貴様ッ!! わが魔王軍を愚弄するのも大概にしろ……! 許さぬ!!」


 魔王は大きな棍棒を振り上げる。それだけで凄まじい風が巻き起こり、


「力自慢みたいだな」

「当然だ。ワレのレベルは3万5千。

 せいぜい数百レベルが限界の人間キサマらでは到底たどり着けぬ次元ぞ」


 魔王が邪悪にほくそ笑む。


「へェ~」

「フン、強がりか。泣いて謝るなら今のうちだぞ」

「ハイハイそういうの良いから、早くかかってこいって」


 オレは背中の剣を抜いた。


「時間の無駄だぜ」

「言ったな!!」


 魔王は青筋を立て、棍棒を振り下ろした。

「おっと」ギリギリで避ける。


「アブネー」

「ふん、安心するのはまだ早い!」


 攻撃で破砕した神殿の破片が、ドリルのよう変化して降り注いでくる。

 矢継ぎ早に着弾。凄まじい衝撃波が巻き起こった。


「ふはは見たか!!」

「見た見た、見える攻撃なんて当たらねェよ」


 オレは無傷で魔王の足元に立っていた。


「なっ……どうやってかわした?」

「あんたのエイムが悪いんじゃない?」

「くそッ!!」


 魔王はまた棍棒を振るう。再び神殿が崩れ、その岩が弾丸となり発射される。

 その瞬間、オレはスキルを発動した。

「《攻撃予測》、《自動回避》、《空中歩行》」

 早口で唱えながら走り出す。

 空を足場にして飛び上がり、弾丸をかわす。


「ならば!」


 その先に魔王が回り込んできて、棍棒を叩きつけてくる。

 が、《攻撃予測》で捉えていた。

 オレは棍棒を錆びた剣で受け止めた。


「《衝撃反射》」

「ぐっ!?」


 攻撃した側の魔王の腕の筋肉が、バリバリと音を立てちぎれ飛んだ。

 青い鮮血が飛散し、奴は弾かれたボールのように石畳を転がると、神殿の彫像に叩きつけられた。


「ぐがっ!?」


「ちなみに、避けてたのは服を汚したくないからだ。お前ら魔王軍の汚ねえ体液がつくからな」


「あーあー」オレは鮮血が飛び散った服を見てげんなりした。


「王女に貰ったお気に入りだったのに……」


 魔王の紫色の顔がみるみる真っ赤に染まる。


「我を本気で怒らせたな……」


 棍棒を両手で持って、正眼に構える。先程とは違って接近してくる様子はなかった。


「キサマ……ひき肉では済まさんぞォォッッ!!」


 魔王は棍棒を思い切り地面に叩きつけた。

 ズン。

 と大気が震え、直後、爆風が吹き荒れる。

 地割れが生じたと思うと中から橙色のマグマが吹き出し、こっちに押し寄せてきた。


 …………怒らせてもこの程度か。

 オレはそれに対峙するように《封印剣》を構えた。


「《切れ味鈍化:解除》」


 そう唱えた瞬間、剣の周囲の空気がぐわんと揺れた。

 錆びた鉄のようだった刀身がきらびやかな銀色に染まる。


「《接地固定》《衝撃範囲限定》《反動吸収》……」


 さらに複数の制限スキルをかける。

 王国にまでは被害が及ばないようにしないとな。


「よっ、こらせっ!」


 オレは迫り来るマグマに向かって、銀の剣を振り下ろした。

 瞬間、魔王が棍棒を振り下ろした時の数十倍の衝撃波が巻き起こった。


 マグマが空中で静止した。

 そして爆発的な風圧によって、一瞬で押し戻されるように魔王の方へ寄せ返っていく。


「なにっ、待っ……ぐぉああああああああああ!!」





「まったく、期待はずれだぜ魔王サマ。頭は無事でよかったってとこか。それより下は……あ~見るに耐えんな」


 首だけになった魔王を見上げて、オレは顔をしかめた。生首でもこれだけ大きいと、負けヅラを拝むのも一苦労だ。


「なぜだ……なぜ……レベル3万5千の、この我が……」


 かすれた声で魔王が返す。


「言い忘れてたな」


 オレは剣をもう一度振り上げた。


「オレのレベルは、99万なんだ」


 絶句した魔王の額から突き出た角を切り落とす。

 これで任務完了だ。

 後のこいつは、まァ首だけだし、ほっといてもそのうち死ぬだろう。


「じゃ~ね~」

「おっ、おい! 待てッ! ほったらかしていくな……!」


 こうしてオレは転生1ヶ月でアッサリ魔王を討伐した。



「…………本当に置いていきおった。あのバカめ」

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