第32話 爪に火と言うか炎を灯す

 炎城様から音声ONで堂々と密約のお誘いが来た時は驚いた。

 まあ、要はプロレスだ。


 お嬢様が提供した配線予想図が決め手となり、図らずも附子島様が第1暫定ルートの踏破に王手をかけた。


 ダークホースどころの騒ぎではない。

 制限時間内に獲得したスコアを競い合うと言う、ルールそのものが根底から覆ったのだ。


 お嬢様が勝ちの目を残すには、こちらも配信枠が終了するまでの間に、第3ルートから最深部まで到達し、附子島様と同じくルート完成インセンティブを手にするより他ない。


 その条件は炎城様も同様。

 そして、第2ルートと第3ルートは、深部で合流するひと繋がりの製造ラインである。


 よって、アングルはこうだ。

 敗色濃厚となった悪役ヒール2人が、徒党を組んで1位のお姫様に下剋上を企てる!


『突撃ーーーッッッ!!!やつざき殿!道中の敵機は全て焼却しますが、構いませんねッ!』


『構わなくないけど、今回は許す!もっとカネになる話なら!』


 現在、私とロイはグライドブースト全開で長い通路を突っ切っている。

 道中でレア物のガーディアンを何機か見かけたが、パーツは無視して全て一撃で始末した。


 どの道、私のカーゴスペースは、既にバルクヘッドの人工筋肉でパンパンだ。

 今は積めぬ荷物よりも、一分一秒が惜しい。


「ハッハー!大盤振る舞いだぜっ!」


 ロイが右肩部の大口径榴弾砲で敵集団を蹂躙する。

 まさに火力の暴力。

 もはやウォッチャーとアタッカーの区別すらしていない。


 熱と破片が壁となって賊の進軍を阻まんと立ちはだかるが、それらは私が逐一シールドで払いのけ、道を確保する。

 お嬢様は最初から共闘の可能性を考慮して、私の左肩装備に、合同ミッションでも用いた雷精電磁カイトシールドを選んでいたのだ。


:このコンビ反則だろwww

:ハルやんの機動力でガッチガチにシールド防御して来るのえげつなくて笑う

:やつざき最強!


 コメント欄も盛り上がっている。

 縮小表示してある炎城様の配信も、同様に賑やかだ。

 これは神回くるで…!


「SGGGY」

「前方にディフェンダーカテゴリを確認。トライアングラーです。いかがなさいましょう?」


 トライアングラー、先ほど上で炎城様とロイが戦っていた機種だ。

 別に任せてやっても良いが、配信的には…


『当然、やつざきが倒す!いい?ホムラちゃん。』

『はい!お手並み拝見するであります!』


 しからば、ご覧に入れましょう!

 ロイは火炎放射器をアース代わりに敵の電撃を逸らしたが、私はそもそも発射と言う行為その物を許さない。

 

 グライドブーストの速度を緩めず、敵の頭上を飛び越える。

 同時にパルスブーストで即座にターンし、装甲の薄い背後を取る。


 トライアングラーもすぐさま高速旋回機構でこちらに向き直るが、時すでに遅し。

 敵機が私と向かい合う頃には、既にニードルミサイルが4発、胴体に突き刺さっていた。


「GSHHH!」


 トライアングラーが苦し紛れに電撃を放とうとする。

 お馴染み三角形の簡易魔法陣が鼻先に展開された。

 

 だが生憎、魔力弾体の対処法は、ついさっき下で練習して来たばかりだ。

 フレイムタンの時と同じ要領で、魔力を湛えたデリケートな鼻面に、鉤爪パリィをお見舞いする。


「退け。お嬢様は急いでおられる。」


 パーツが剥げないなら遠慮する必要は無い。

 敵機が姿勢を崩した隙に、鋭く跳躍して背に飛び乗る。

 胴体に突き刺さったニードルミサイルに踵を打ち付け、動力炉にねじ込んでトドメだ。


「PPPGGGUYUIY!?」

『はい!こう言う事、こういう事ぉ!どけどけーーーッ!!』


:いたそう(小並感

:炎城よりも絵面ヤバくて草生える

:やつざき配信は残虐ファイトが基本サービスとなっております


 うっさい!よそはよそ、うちはうち!

 ディフェンダーの配備地点近くはトロッコ駅の設置に適している事が多い。

 せめてもの足しに申請しておこう。


 それから更に少し進んで、ようやく反対の端が見えて来た。

 あの大きなゲートが最深部のメインジェネレーター室だろう。

 

 たが、背後から撒ききれなかったガーディアンが数機しつこく追い縋って来る。

 この執念深さはアタッカーカテゴリ…

 バルクヘッドか!


『こいつらは炎城とロイが頂くであります!』

『おっけー!任した!』


 ロイが床に盛大に火花を散らしながら反転し、追手に向かって火炎放射をブチ撒ける。


 半魔力兵器、風精焼夷火炎砲。

 風の術で圧縮した、地上の空気を持ち込んで用いる火炎放射器は、酸素に乏しい大深度地下でも、安定した火力を約束する。

 

 だが、もちろん、動きの素早いバルクヘッドをこれだけで倒し切れるとは考えていまい。

 本命は、その陰でこっそり左肩から発射した、四角い箱の方にあると見た。


『今だ!炎精クラスターマイン起動!焼き尽くせーッ!』

「ラジャー、ボス!とっておきだぜぇーっ!」


 炎精クラスターマイン?

 寡聞にして存じ上げないが、今検索してみたところ、炎の術で創り出した小さな魔力爆弾を、箱型の本体からバラバラと大量に散布する武器らしい。


 つまりは無差別絨毯爆撃を行うための装備と言う事か。

 なんと言う残虐非道!

 非人道的とは正にこの事なり!

 私たち人じゃないけど!


:すげええええ

:これは映え

:ロイくゆカッコいい


 なぜなのか。


『はいはい、片付いたね。これで私たちも各担当ルート踏破成功…だけど。』


 お嬢様が目を細める。

 最新部に到達はした。

 したが、ここイズミールは未探査ダンジョンだ。

 当然ながら、その最深部にはアレが残っている。


「GRRRRWOOOO!」

『ギャハァァーーーッッッwwwキッッツいwwキツいキツいってコレwwあかんwww2人とも早く助けに来てwww死ぬww死ぬww死ぬwww』


 間引きどころか、誰も相見えた事のない、このダンジョンの最後の砦。

 特務ガーディアンが!

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