第33話 イズミールのヌシ

 シルエットはフレイムタンに似ている。

 大きさも同程度だ。

 だが、その機体にかけられたコストが、フレイムタンの比でない事は容易に推測出来た。


 特に頭部は重点的に補強されており、パリィ1発で主砲を封じるような事は出来そうにない。

 楽はさせてもらえんか。


『ねえ、ちょっとwwwジャミング効かないんですけどwwwなんこいつwwwズルくねwww』

「主様、笑い事ではござりませぬ。」


 イヴは既に相当数のタレットを展開し終えているが、敵機が動作に支障をきたしている様子はない。


 ジャミングを防ぐ術があるのか、システムリカバリ中に走らせる予備システムがあるのか。

 いずれにせよ、チャンスタイム中に押し切る戦術は通用しまい。


 跳躍とパルスブーストで凌いでいたイヴが、徐々に追い詰められて行く。

 まずい、蹴りの間合いだ!


「やらせん!」


 レフトショルダーユニット起動!

 シールドを掲げて割り込む!

 この蹴りも軽くはないが、サンダースケイルの頭突きよりは幾分マシだ。

 しっかりと受け止めて、体制を立て直す。


『お助けに参りましたよ、姫。』


 お嬢様のアホがなんか言ってる。

 わざわざアバターにウインクまでさせて。


『やっさん!ナイスゥー↑』

「ハル!すまぬ、助かった。」


 ひとまずイヴに一息つかせる事は出来た。

 次は敵戦力の分析だ。

 威力偵察は大人しく、重量機に任せよう。

 私はその際に生じる隙のケアに集中する。


『ロイ!火力集中!』

「ラジャー!」


 ロイがクラスターマインを散布しながら、火炎放射を当てに行く。

 巨体故に回避はされなかったが、当然そこは敵機の反撃圏内だ。


 私もパルスブーストを起動してロイを追い抜き、最速でカイトシールドを展開する。

 予想通り鋭い尾撃…いや待て!

 同時に口元の魔力兵器がこちらを狙っている!


『ロイ!爆雷で牽制!』


 炎城様が今度はロイを私の前に割り込ませる。

 素早く振られた左手の爆雷投射機は、チャージを要する純魔力兵器に対して、後の先を取ることが可能だ。


 だが、それでも一瞬、特務機が吐き出しかけた火炎ジェットが、ロイのボディを掠めた。


「BBbzZyy!っと、耐熱コート越しでも効くなこりゃ!」

「ロイ殿!無茶な事を!」


:また新型きた!

:これボスだろ、3人で勝てるか?

:無理しないで撤退した方がよくね


 コメント欄の反応も分かる。

 なにしろ情報の一切ない初見の特務機だ。

 大きな損傷を受ける前に退いて、今回の探索で延伸したトロッコ網から後日、十分な人数を送り込んだ方が賢明。


 それは分かる。

 分かるが、そもそも賢明な人間は、こんなデスマーチみたいなダンジョン攻略は、最初からしないのだ。


 ここまで盛り上げておいて、これに挑まないなど、配信的には下の下の悪手!


 万一全滅したらしたで、次回再チャレンジの配信ネタが出来るので、それはそれで美味しい!

 よって撤退の理由なし!


『まあ見てなさいよと!ベノちゃん!タレット、チャフモードに出来る?』

『出来る!今した!』


 附子島様が呪文プログラムを走らせると、部屋中に浮かんだタレットが、一斉に魔力を帯びた粉体を空中に吐き出した。

 

 ミスティックチャフ。

 魔力欺瞞粒子を用いたパッシブデコイだ。

 フレイムタンと同系統なら、索敵は魔力探知による所が大きいはず。

 これで多少なりとも有利になるか?


『焼いてみた感じ、外装材は恐らくモリブデン合金であります!熱するより、爆風で滅多撃ちにするが上策かと!』

『オーケー、いつもの火炎放射器が爆雷に変わる感じね。』


 ロイの攻め自体は有効と。

 サンダースケイルほどの機体サイズではないため、ゴリ押しが通じる可能性はあろう。


「GGGGYYAA!!」


 そう考えた矢先に、特務機が吠える。

 同時に全身の装甲に走るスリットが赤く輝き始めた。


「これは…!」

「イヴ殿、私の後ろに!」


 カイトシールドを起動。

 恐らくこれも純魔力兵器だろうが、2機いちどには庇いきれない。


 耐熱コートのあるロイはともかく、イヴは危険だ。

 どうにかシールドを展開し終えた直後、特務機が赤く爆ぜた。


ZAAAAAAP!!!


:は?その発生で全方位とかうっそだろ

:ク ソ ゲ ー

:ふざけんなwwwww


 口部の物よりは遥かに小さい、だが十分な破壊力を備えた熱線が、特務機の全身から撒き散らされる。

 こんなもんメインジェネレーターのそばでぶっ放すやつがあるか!


 と思ったが、どうもジェネレーターは更に一段地下に設置されているらしい。

 射角の外だから安全という事か。

 転んだ時どうするつもりなんだ。


『っぶな!これで手札は大体吐かせたかな?魔力砲と蹴りと尻尾と、今のやつ。ベノちゃん、タレットはいくつ残ってる?』

『20機中16機。今のやつ数発で全滅する。』


 つまり今のやつを封じるのが目下の課題か。

 どうした物やら、ネイリストの知恵も借りたい気分だ。


:水でもかぶるか

:どこに水あるんだよw

:通路に地下水が染み出してるからそれで…


 前言撤回、こいつらは頼りにならん!

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