第31話 第2暫定ルート②

―同時刻、イズミールダンジョン第2暫定ルート深度400帯にて―


『えっ!?第1ルートに踏破の目処が!?本当ですか!?』


 炎城ホムラことレディア・ホーエンハイムにとって、その知らせは想定外であった。

 思わず一瞬、自らのキャラクター設定を忘れてしまうほどに。


:マジっぽい、協会職員の弟が緊急呼び出し喰らってた

:附子島配信めっちゃ盛り上がってたよー!

:炎城また素がでてるw

:燃料さんおひさっす!


 イズミール・ダンジョンの3つの暫定ルートの中でも、第1ルートは最もギャンブル性の高い選択肢だ。


 あるかどうかも定かではない最深部直通エレベーターを探して、ロクに戦えない装備条件でダンジョンに潜るなど、収入の保証も無しにできる事ではない。


 当然の結果として人気は乏しく、彼女自身もこのルートは、第1とは名ばかりで注目度の低い横道と認識していた。


 故に同期の附子島ベノミことヴィオレッタ・ボルヘスが、半ば凍結していたそのルートの攻略を、この企画のために再開すると申し出た時は、貧乏クジを押し付けてしまったかと気に病みもしたのだが…結果はこの通りだ。


:盛り上がって参りました!

:最深部までの踏破インセンティブっていくらぐらいだっけ?

:いっぱい!


 そうか、いっぱいかー

 などと笑っていられる状況ではない。


 レディアが本企画を盛り上げるために作ろうとした流れはこうだ。


 まず自分が最速でトロッコ停車地点を1箇所発見し、インセンティブの獲得を確実なものとする。これは成功した。


 第3ルートのヒカリも同じくトロッコ路線の延伸に成功するだろうが、普段の配信での進行ペースを見る限り、制限時間内に進められる距離は1区画分が限度のはずだ。


 従って、勝敗の行方は自身のトロッコ路線2区画延伸の成否に委ねられ、これが本企画の目玉となる。


 第1ルートの動きは、2人の勝負が決した後の最後の逆転要素として、配信終了ギリギリまで視聴者を引きつける為の、いわばデザート。


 せめてそこで少しでも、全ルートの視聴者の耳目が、附子島に集中するタイミングを用意できれば御の字。

 そのはずであった。


「ボス、どうします?ちまちま駅の置き場を見繕ってたんじゃ、ルート完成インセンティブには太刀打ち出来ませんぜ。」


 ロイの言う通り、納品なしトロッコ駅2つ分の報酬のみで勝負したのでは、既にルート完成報酬の獲得がほぼ確定した附子島ベノミには絶対に勝てない。


 追わせる側だったはずの炎城ホムラが、完全に追う立場になってしまった。


 まったく、これは何という…

 嬉しい誤算だろうか!


 もはや尺の事など気にする必要はない。

 全力のデッドヒートの末に、とーめんたーずの3人全員で、前代未聞の3ルート同時制覇を成し遂げる。


 高過ぎる望みと棄却したはずの、最高のシナリオへの導線が天から降って来たのだ。

 これを拾わぬ手は無い。


 劫火の魔女レーヴァテインの炎は、誰もがワクワクするような冒険譚を紡ぐための、イマジネーションの灯なのだから。

 そのためには…!


『ロイ、グライドブーストで前進!この部材製造ラインの先には、組み立てラインに繋がる部材倉庫があるはずであります!』


 もちろん、そこもトロッコ停車地点として有望だ。

 それはそれで当然にいただく。

 だが、レディアの主たる目的は、今やそれではなくなっていた。


『やつざき殿、聞こえておりますか?折り入って内密にご相談が…』

『なあに、ホムラちゃん?』


 第2ルートは搬入口、第3ルートは搬出口。

 即ち両者はいずれ必ずどこかで合流する。

 当然、そこを進んでいた者同士も。


『談合に、ご興味はありませんか?』

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