第12話 被疑
「イザベル殿、マクドウェル殿もここに
ぜえぜえと息を荒くしながら走ってきたのは、憲兵の制服を身に付けた男だった。彼は宿屋から二人の足取りを探して、都市中を歩き回っていたらしい。
「なんだい、騒がしいねぇ」
「アン婆ちゃん。ここで売っちゃダメって言われてるだろう?」
「そんなの知ったことかい」
憲兵の男はそっぽを向く老婆に深いため息を吐いてから、二人を探していた理由を説明した。
「ハリヴが釈放だと?!」
「はい。詳しいことは言えませんが、ある貴族から根回しがあったようです」
マックの実の父であるハリヴ。中央都市では貴族としてその横暴さ加減を嫌われていたらしいが――。
「それが、我々にもその理由は伝えられておらず。憲兵団としても情報を集めております」
「それでアタシたちにも関係があるんじゃないかと読んだわけか」
「ええ、その通りです」
当然ながら、この二人にはそんなツテは無く、村からの護送に付き添ってきた彼らが釈放されたことを喜ぶはずもない。
憲兵団としてもそれは承知の上だったが、話を聞かないわけにもいかず、マックとイザベルを任意という形で憲兵舎に同行する運びとなった。
「ちょっと待ちな。アンタにこれをやろう」
老婆はマックの腕を掴むと、青い宝石の付いたブレスレットを渡した。
「くれるの?」
「もちろん。それはお前さんの役に立つ代物だろうから大切にするんだよ」
「ありがとうお婆さん!」
「アン
憲兵に先導され、マックは初めて憲兵団の兵舎へとやって来た。特になんの感想も出てこないが、しいて言うなら「こんなボロくて良いの?」と口には出さないが思っていた。
「ここでお待ち下さい」
「なんか、カビ臭くね?」
言わないようにしていた大人なマックとは違い、彼女は何でもかんでも口にしてしまう。
まったく、保護者はどちらなのか。
「お待たせして申し訳ない。私は憲兵団長のレアル・フォン・ビリエッダだ」
「またエルフさんだ!」
「ハーフエルフだがな」
「それはともかく、フォンってことは王家の人間か?」
「私の血筋は元を辿れば王家に繋がる。まぁ、分家も分家なので気にしないでくれ」
憲兵団長レアルはマックの
「他の者から聞いていると思うが、今回の件で何か心当たりはないか?」
突拍子のない質問に、思わず二人は顔を見合わせた。
「失礼。釈放後、ハリヴ・スピングの行方が分からなくなっているのだ。監視の者をつけたのだが。何者かの妨害があったおかげで見失った――」
「ちょ、ちょっと待ってくれよオッサン!」
イザベルが口を挟むと、横にいた憲兵が「無礼者!」と剣を抜いた。だが、少しも動じることなく彼女は続ける。
「オッサンは、アタシたちが手助けをしたとでも言いたいのか!? 冗談じゃない。ウチの村人はアイツに殺されかけたんだぞ!」
「まぁ、落ち着け。確かに疑ってはいるが、今はどうにも情報不足でな。彼を知る者が他に居ないのだ」
団長レアルは部下に剣を
「護送の道中、賊に襲われたらしいな」
「ああ。そいつらをシメたらベンジャミン・スレッジからの依頼だと吐いたぜ」
「……それは初耳だな」
嘘だ、嘘を吐いている奴の目だ。
しかしなぜ嘘をつく必要があるのか。それが分からないければ、追求のしようが――。
「そうだ! あの獣人の女の子はどうしたんです?」
「ああ、あの娘か……」
マックの鋭い質問に思わず
「どこにいるんだ?」
「……今は取調べ中だ」
「アンタはそれを聞いていないのか?」
「まだ報告が来ていない」
「貴族がらみで、しかも釈放された後に調査をするくらいなのに、まだ聞いていないのか?」
彼は何も答えることはなかった。
どうやらこの一連の事件、大きな力が影響していることに違いはなさそうだ。
「でも、どうして僕たちを呼んでまであんなことを聞いたのかな」
「あわよくばアタシたちを悪者にしようって魂胆だったんじゃねぇのか?」
兵舎からの帰り道、マックとイザベルは不満気に口を尖らせていた。
滞在予定期間は明日まで。明後日の朝にはこの街を出なくてはならい。その間に少しでもこのモヤモヤ感を払拭させたいところだ。
「あら、おかえり。街はどうだったかい?」
「ママさん、ただいま戻りました」
「散々だったよ。まったく」
「おやおや」
こうなりゃ、ヤケ酒だ。
マックはヤケジュースで疲れを飛ばす。
「せっかく来たのに。ロクに観光もできねぇなんてよぉ」
「本当だよね。母さんの地図も結局二箇所しか行けなかったし」
宿屋の食堂で女将の目が光る中、静かに荒れる二人であった。
◇◇◇◇◇
はぁ、はぁ、はぁ……
「お、よく来たなセカイ」
は、話とはなんじゃ?
「ふむ。彼のことで少々問題が起こったのだ」
彼、とはマクドウェルのことか?
あの子なら既に――。
「彼にも関係はあるが違う。お前さんが手を貸しているもう一人の方だ」
ああ、勇者のことか。
それなら順調に隠居生活を満喫しておるよ。
「それなんだが、魂の返還が行われているようでな」
魂の返還じゃと!?
それはあり得ぬ話じゃ。
彼はワシの神殿で妻のリンダと共におる。
「お前さんの仕業だと思っていたのだがな。他に考えうるとすれば、あちらの世界から引き戻されている、とか?」
あり得ぬ話ではないのう。
じゃが、彼の魂は今ワシの許可無しには動かせないはず。
もしや――。
「また、あのジャジャ馬女神の仕業か」
はぁ、なんでいつもワシにちょっかいを……
「じゃ、任せたぞセカイ」
神も楽ではないのう。
スライムの恩返し~知らずに助けたのは魔物でした~ 小林一咲 @kobayashiisak1
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