第五十四話 新しい武器を作ろう! その1

 レイラとの戦いを終え、一夜が過ぎた。


 早朝。

 オレはいつも通り、アカネさんの料理をご馳走になっていた。パールは仕事で朝から居ないらしく、食卓はオレとアシュとアカネさんの三人で囲んでいる。


「シール君、今日はどこへ遊びに行くの?」


 カレーを水で流し込んでオレは返事する。


「この街に居る錬金術師に会いに行きます。

 新しい武器が欲しくて」


「あらあら!

 じゃあディアちゃんに会いに行くのね~」


 アカネさんはフサフサの耳をピンと立てる。

 ディアというのはパールとアカネさんの子供だ。錬金術師で、このマザーパンクで店を構えている。


「はい。そこしか錬金術師の店ないみたいですから」


「もふもふっ!」


 カレーを口に付けたアシュが顔を上げる。


「シール! 私もついて行く!

 猫の女の子……絶対可愛い」


「そうだなぁ。獣人と人間のハーフってのは興味あるよな」


「うふふ。楽しみにしてるといいわ。

 とっても可愛い、自慢の娘よ~」


 シーダスト島、そこで貰った戦利品。

 赤の錬魔石と緑の錬魔石。


 あの二つを錬金術師の手で錬成してもらい、新たな魔成物を作ってもらう。今日の予定はそれだけだ。


「あ、じゃあマタタビクッキー持っていってくれるかしら?

 あの子の大好物なの♪」


 マタタビ……やっぱり猫なんだな。


「お安い御用です」



 --- 



 アシュが速足で街道を歩く。

 コイツ、好きな物が絡むとテンションの上り幅が凄いな。


「お前、そんなに動物好きだったのか?」


「私は猫と犬が好き。

 お姉ちゃんは犬が大好き。

 シールは好きな動物とかいないの?」


「どの動物も好きでも嫌いでもないが、

 うーん……鳥は全般的に好きかな。

 空を自由に飛べるのが羨ましい」


「それ、好きとは違う気がする……」


「だな。好きというより憧れだ」


 オレはアカネさんが持たせてくれた地図を開き、赤い×の付いた場所を目指す。

 ×に向かって歩いていった結果、着いたのは最下層より二つ上の階層だった。


「……存在感が半端ないな」


「おっきぃね」


 目の前には外観を無視した鉄製の建物が立っていた。自然物で構築されたこの街で異彩を放つゴツゴツした建物。建物の屋根からは煙突が伸びており煙を吹いている。


 適当に掲げられた看板には〈ケトル=オブ=ガラディア〉と書いてあった。


「開いてんのかな……」


 正面の油染みた扉、ドアノブを回して開く。


 光が目に飛び込んできた、中は意外に明るい。魔成物が入ったガラス張りのケースが壁沿いに並んでいる。

 そこらに置いてある箱には一律500ouroだったり1000ouroのラベルが貼られている。箱には武具の手入れに使うであろう砥石やら布、用途の不明な鉱石などが乱雑にぶっこまれている。



「らっしゃいませー」



 やる気のない声が正面から聞こえた。


 扉から真正面、一直線に進んだところにレジカウンターがある。

 レジカウンターを挟んで反対側に彼女は居た。


 猫耳を頭から生やした女の子だ。

 アカネさんと違い完全な獣人ではなく、ただ人間に猫耳と尻尾を生やしただけの女の子。口元はマフラーで隠している。体格は小さく、シュラといい勝負だ。


 間違いなく店員の癖にカウンターに肘をついて、オレらには目も向けず、本を眺めてやがる。

 長く伸びた尻尾で頭を掻き、「ふわぁ」と欠伸を漏らした。


 オレは不信感を抱きながら歩き、カウンターに近づいて行く。


「……お前がディアか?」


 猫耳少女は白黒しろくろの前髪の隙間から眠たげな目を起こす。


「そうっすけど、アンタ誰っすか?」 


 扉からひょこひょこと移動してアシュがオレの隣に立つ。

 アシュはディアを見つけ、「にゃんこ……!」と目を輝かせた。半分以上人間なのだが、これでもアシュの守備範囲内に入っていたらしい。


「お前の両親の知り合いだよ。

 そんで客だ」


「そっすか」


 なんて塩対応。

 あの熱血な父親と穏やかな母親だ。語尾に“にゃー”を付ける様な活発女子を想像していたのだが、想像と正反対だな。


「耳、撫でていい?」


 アシュがもじもじしながら聞く。


「いいっすけど、一撫ひとなで100ouroっすよ」


 ガーンっとアシュは肩を落とす。

 アシュが100ouroを求める瞳でオレを見るが、オレは首を横に振る。


「ガードが堅いじゃねぇの」


「銀髪の悪魔対策っす」


「銀髪の悪魔?」


「名前をレイラ=フライハイトって言うっす。

 一日中撫でられ続けて、嫌気が差したっす」


「……アイツが元凶かよ」


 そういやアイツ、可愛いモノ好きだって言ってたな。


 つーかレイラとディアに接点があったとはな。爺さんとパールは昔から親交があったっぽいし、その家族であるレイラとディアも接点があって当然か。


「そうだそうだ、忘れるとこだった。

――ほい、アカネさんからの差し入れ」


 オレがマタタビクッキーの入った小包をレジカウンターに置く。

 ディアは無表情のまま袖に包まれた両手で受け取った。


「マタタビクッキーだ」

「おぉ~。ありがたいっす。

 ウチ、これがあるとテンション万倍っすよ」

「その割には表情に変化がないけどなぁ……」

「よく顔に出ないって言われるっす。

 でも耳にはよく出るっすから、ウチの感情を知りたければ耳を見ると良いっす」


 ピコン、ピコン、と猫耳が伸び縮みしている。なるほど、これが嬉しい時の合図か。


「クッキーは後回しにしてくれるか? 本題はこいつだ」


 オレは巾着バッグを開き、中から二個の錬魔石を取り出してカウンターに置く。

 オレが錬魔石を置くと、ディアは興味深そうに錬魔石を覗いた。クッキーを貰った時と同じように耳が動いている。


「こいつで魔成物を作ってほしい」


 ディアは背中側にある棚からノールックで虫眼鏡を取り出し、オレが出した錬魔石を注意深く観察する。


「形成の錬魔石、融度ゆうど3

 強化の錬魔石、融度ゆうど4」


「融度?」


「鉱石と融合させた時、どれだけ力を発揮できるかの指標っす。

 簡単に言うと錬魔石のランクっす。最大は12。この二つ、中々悪くないっすね」


 ディアは虫メガネをしまい、背後の棚から分厚い本を取り出した。


「カタログっす」


 ディアがカウンター越しにオレに本を差し出す。


 本を受け取る。ズシッと重みで落としそうになった。

 本って言うほどのものじゃないか。ただ紙を紐で繋いだだけの簡素なものだ。オレはカタログを開き、パーッと眺める。


 剣に盾に槍。弓やら鎧やら多種多様な物がある。

 説明文と共に隣にイメージ図が書いてある。


「迷うな……」


 今のオレの手持ちは三つ。


 相手が霊這系の魔物でなければただの短剣である〈ルッタ〉。

 魔力を込めると伸びる槍、〈獅鉄槍〉。

 指に嵌めれば戦闘力を大幅に上げるが、一度嵌めると赤い魔力が尽きるまで外せない死神の指輪。〈オシリスオーブ〉。


 接近戦をおこなう分には申し分ない手札だ。

 問題はやはり、中・遠距離だな。


 〈斬風剣〉はパールのオッサンに返しちゃったし、遠くに居る敵に対して有効な攻撃方法が〈獅鉄槍〉を伸ばすだけじゃな……。


 となると、弓か。

 いや、防御を固めるために盾ってのも捨てがたい……。


「ん?」


 カタログをペラペラとめくり、後半部分に差し掛かった時、

 歪な、見たことの無い造形の魔成物があった。


「ディア、こりゃなんだ?」


 オレはカタログを広げてディアに見せる。


「あ、これは〈二輪錬魔動車にりんれんまどうしゃ〉っすね」

「馬車の車輪? みたいのを付けてるのか?」

「そうっすね。魔力を込めるとこの車輪が回転して進むっす。

 いま話題の最新鋭魔成物っす」

「じゃあこれは?」

「〈四輪錬魔動車〉っすね」

「へぇ、これらも作れるのか?」


 ディアがカタログのある部分を指さした。

 指さす方を見ると“1%”と記されていた。


「ここに成功率が載ってるっす。

 この二つはまだウチの技術力じゃほぼ間違いなく成功しないっす」


「じゃあ載せるなよ……」


「誰かがウチらの技術力向上のため、錬魔石を提供してくれることを願って載せてるっす。

 そのページから先の物は帝下二十二都市の錬金術師の街〈ブリューナク〉で仕入れたものっす。

 なんでも、とんでもない天才コンビが最近〈ブリューナク〉に入ったらしくて、それらは全部その天才コンビが発案した物っす」


「ほぉ。世の中にはすげぇ奴が居るもんだな」


「錬金術師界隈はその天才コンビに振り回されている現状っす」


「明らかに技術レベルが他のモンと違うもんな……」


 さてさて、そんな天才の話は今はどうでもいい。


 成功率か。どれも100%という物は無い。どんな簡単な物でも確実に成功する、と保証はできないってことか。


 せっかくの錬魔石だ、失敗するのは避けたい。せめて90%以上――


「うーん。悩んだが、やっぱりコレかな」


 盾、弓。どちらも捨てがたいが、やっぱりオレの性に合いそうなのはコレだな。


「どれにしたの? シール」


 オレはカタログをアシュとディアに見えるように開く。

 そのページに描かれるはV字の投擲武器――


「ブーメランだ!」




 ――――――――――

【あとがき】

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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