第四十五話 とっておきの一手
修行初日、オレはパールに完敗した。
いやはや、ここまでなにもさせてもらえなかったのは初めてだな。
予知でもされているのかと勘繰るほどに、オレの打ち込みは全部読まれた。
ずっと鋼鉄の塊に斬りかかっているような感覚だった。斬って弾かれ斬って弾かれ……息を切らしたり乱した瞬間に腹を蹴り飛ばされる。
なにが『私も少し本気を出さざるを得ない』だ。まったく本気で相手されていなかった。
パールは強かった。なにをどうしても斬れるイメージが湧かなかった。
日が暮れるまで、何度も何度も仕掛けたが、結局傷を作るのはオレだけだ。
あれは修行と言うのだろうか。ただひたすらに剣の
オレが百度は剣を落とされた時、初日の修行は終わった。
修行開始から二日目。少しだけパールの動きが見えるようになってきた。
だがまだまだ届かない。前より打ち合える回数は増えたが、パールの剣以外にオレの刃は届かなかった。しかし着々と魔力の総量が増えていくのを感じた。
修行開始から三日目。
剣の握り方、間合いの取り方と言った剣術の基本が身に付いてきた。
ちなみにパールからはなにも指導されていない。あのオッサンは無言で、オレと剣を合わせるだけだ。
割とこのやり方はオレに合っていた。爺さんも同じような教育方針だったしな。基本的な修行の方式だけ決めて、後はオレに任せる。
オレは誰かに色々型に嵌められるよか、自分で考えて答えを導き出す方が
剣術を習ったことはない。
だから、剣の握り方はパールを真似た。右手で剣を握り、その矛先を相手の喉元に向ける。片手剣スタイル。
この三日間、達人と剣を合わせてようやくオレは人間の初期動作、モーションの大きさを理解した。呼吸、視線、筋肉の動き。膝がどれくらい沈んでいるか、腰はどれだけ捻られているか。
それらの情報を瞬時に処理し、相手の動きを予測する。
この理屈がわかれば、逆に相手に読まれづらい動きをすることも可能。
この日、オレがパールに剣を落とされた回数はたったの3回だった。
そして四日目の朝を迎える。
オレは本棚に囲まれた部屋で目を覚ます。
ちなみにオレが寝泊まりしている部屋はパールとアカネさんの子供、ディアの部屋だ。
「……相変わらず、目が回る部屋だ」
初めてこの部屋に来た時、書斎かと一瞬思った。
壁沿いに本棚がずらーッと並んでいる。窓すら本棚によって隠されている。
部屋のど真ん中に設置されたベット。猫のマークが付いた毛布が掛かっている。
オレを部屋に案内した時、パールは苦い笑顔をしていた。
『私の娘は錬金術師でな!
錬金術の研究に夢中で、他のことには一切興味が無かった! ここにある本は全て錬金術の本だ!
部屋も一切飾りっ気がない! 今はもう、自分の店を持ってその店で寝泊まりしている!』
〈マザーパンク〉で店を開いているのか? とオレが問うと、
『うむ!
興味があるなら一度訪ねてみるといい!』
とのことだ。
2人の子供の姿は気になるし、錬魔石のこともある。レイラとの決闘が終わったタイミングで行ってみよう。
さて、
修行は今日で最後だ。明後日にはレイラとの決闘である。
明日は体調を万全にするために休みになっている。
オレはまだ1度もパールを斬れていない。
斬風剣を貰うための条件、それを満たすチャンスは今日しかない。
洗面所で歯を磨きながら、どうやってパールから一本取るか考える。
「……。」
パールのオッサンはマジで隙が無い。
強くなり、剣を知るほど隙の無さを実感する。
オレは剣の才能はそこそこあると自己評価している。ただ、多分だけど、オレがどれだけ剣を極めようとあのオッサンには届かない気がする。あくまで剣の腕に限るならの話だがな。
一応、手はある。
1つだけ、油断しているパール相手なら、1本取れるかもしれない手がある。
「成功率は五分だが、アレをやるしかないか……」
オレは水を手のひらに溜め、顔にぶつける。
気合を入れて後ろを振り返ると、寝ぐせを炸裂させたシュラが立っていた。
「おはよ……ふあぁ」
口元をもぞもぞさせ、目を線にしている。
眠そうだ。
ちなみにシュラはパールの書斎で寝泊まりしている。呪い関連の本を漁っているようだ。
「どうなの? 調子は」
「まぁまぁかな」
シュラはオレの側を通り、洗面台の前に立って歯磨きを手にする。
「そっちはどうだ。
街の図書館に行って呪いに関係する本を読んでるんだろ?」
「収穫ナシ。
呪いの種類がいっぱい載った本とか、呪いによる魔術師強化理論とか、
腐った本ばかりよ」
そりゃ、そんな簡単に呪いを解く方法が見つかるはずもないか。
オレは部屋を出て、支度をし、いつもの岩場へ向かった。
---
岩石地帯に着いたら巨大な岩を背に乗せて腕立て伏せ1000回。結局1000回は我慢することにした。
それを終えたらパールとやり合う。
オレとパールは剣を握り、間に十歩の距離をあけて立ち止まる。
「……。」
パールの口元はにやけているが、瞳には一切の遊びが無かった。
オレという剣術初心者に対し、まるで油断が無い。達人を相手にしているかのような瞳だ。パールの瞳を見て自分を剣の達人だと誤解してしまいそうになる。
手に持つは互いに真剣。殺風景な岩場の上で八歩、九歩の間合いでジリジリと寄ったり離れたりを繰り返す。
「シールよ、これが最後の仕合だ」
「え?」
オレは剣を下げ、左手を広げる。
「なんでだよ。
まだ時間はあるだろ?」
「対レイラ嬢用の訓練を用意した!
この仕合が終わったら早速そちらに入る」
「……わかった。
じゃあこれが最後のチャンスか」
「む? なんの話だ?」
「アンタに一太刀浴びせたらその斬風剣を貰うって話、もう忘れたか?」
「はっはっは! 逆にまだ覚えていたのか!
とっくに諦めたと思っていたぞ!」
「冗談……」
オレは再び剣を上げる。
狙うは一瞬だ。
現在、オレの背後の岩壁が太陽を隠している。
その太陽が顔をだし、パールの顔に陽が浴びせられる一瞬。
そこで、とっておきを披露する。
「そちらが来ないなら、私から――」
その時、太陽の光がパールの顔を照らした。
「むっ!」
パールが目元にシワを寄せる。
来た。
ここだ。ここしかない。
全身に赤い魔力を込め、そして、オレは
「――ッ!!?」
次の瞬間、
オレはパールのすぐ目の前まで接近した。
――――――――――
【あとがき】
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