Scene 2

 竜と夜叉の拳戟により、吹き荒れる衝撃波と炸裂音。

 だがしかし、暴威の激突は長くは続かない。


「私の攻撃が全て見切られ――かはっ!?」

 ひときわ大きな衝撃音が、人外たちの剛力によって半壊した廃工場に轟き、

「……いやぁ、参ったわね」

 赤雷に包まれし竜の拳を受けた月夜は、半ば瓦礫に埋もれた己の姿に自嘲する。

「悪魔の遺伝子が組み込まれているというのに……たった数合でのされるなんて」

 短時間稼働とはいえ、戦闘力だけなら夜叉は死徒にも匹敵する。

 そのような強化が施されたはずなのに、まるで勝負にならなかった。

「これが悪魔の鎧を破壊するために造られた、竜の力か……」

 遥か地上そらへと伸びるセントラルタワーを背に、緑玉色の瞳に殺意が見られぬ竜に。

「アイ!」

 泣き出しそうな顔で駆け寄ってきたパメラの姿に。

「あなたたち、早くこの街から逃げなさい」

 上半身を起こした月夜は苦笑し、諦観の面持ちで警告を行う。


「大阪を陥落させた西の悪魔たちによって、まもなくこの都市は滅ぼされる。……だけど、その子ひとりなら安全な場所に連れていけるでしょう?」

「……」

「音速を超える速度で駆けることができる貴女一人なら、もっと簡単に逃げることができた。だけど、その速度域に耐えられない子の身を案じ、わざわざバイクを使って逃走した。……そうまでして守りたい子なんでしょう?」

 月夜の洞察に、胸元にいるパメラに視線を落としたAIからの返答はなく、

「恐怖と猜疑心に圧し潰され、貴女を信じることができなかった人間わたしたちの負け。増援が来る前に、早く行きなさい」

 そして遠ざかるバイクの排気音を耳に、

「こちら八坂月夜、竜の撃破に失敗」

 作戦本部に向け通信を行う月夜は微笑み、次の一文を付け加える。


 ――なれど、竜は人の敵にあらず。

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