第5話 激動

 炎上するマンション上層階を彼方に……。


A班アルファB班ブラボーは突入を開始。C班チャーリーおよびD班デルタは、予測退路からの竜の脱出を阻止せよ!』

 現場へと急行する装甲車の中、

「まさかこんな強硬手段に出るなんて」

 軍用無線に耳を傾けていた八坂月夜は歯軋りし、

「上層部も政治家たちもパニックになっていますよ。あと数日で、東京ジオフロントが大阪のようになるって」

 同乗する部下の言葉に。

「住民の避難は、事前に済ませていたんだな?」

「はい。手回しをしていたと聞いております」

「なら、それだけがせめてもの救い、か」

『と、突入部隊が壊滅! 目標ターゲット、第七軍用道路を高速移動中!』

 一瞬にして全滅させられた特殊部隊に車内がざわめく。

「D班の八坂中尉だ。死者数は?」

『それが……無力化はされましたが、今のところ戦死者数はゼロです』

「やはりあの子たちは……」

 月夜は納得したかのように独白し、

「交通システムから得た竜の位置情報をリアルタイムで送信しろ。――先回りする!」


 そして青いネオンに照らされた、灰色の街の中、


「加速する。掴まっていろ」

「うん!」

 バイクの後部座席に座るパメラは、AIの身体を強く抱きしめ、

「アケディア、モーターサイクルのマテリアルを再構築」

《諒解。限定リミッター解除、旋回性能向上、加速性能向上》

 変形したマシンを操るAIは、甲高い排気音エグゾーストノートを奏で疾駆。

「なによあれ……反則でしょ!」

 その光景に、追跡を行っていた月夜は絶句し、

「あんなヤクザ者にまで協力を要請して……!」

 上空から対戦車ミサイルを発射したヘリに――操縦席の横に座る天羽の姿に舌打ちし、

「中尉! 無理です追いつけません!」

「だったら空からなら!」

 装甲車から飛び出した月夜は、ビルの壁面を駆け上り天高く跳躍。

「やれやれ、無茶をなさる」

 ヘリのキャビン部にある着陸装置を掴まえた強化戦士に、天羽は苦笑する。


 かくして追跡劇はさらに加速し、


「廃工場地帯――あそこなら!」

 民間人への被害は出ない。

 そう判断した月夜はヘリからの急降下ダイブを行い、

「夜叉モードでの全力戦闘は、一分が限界……」

 見据える視線の先――無数の配管に囲まれたプラントに立つAIの姿を認め、

「ここで迎え撃つと選んでくれていたわけか。――嬉しいね!」

 外殻甲冑を装甲した女夜叉ヤクシニーは、人型の竜と激突した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る