Scene 5

 薄明りに照らされた部屋……。


《何故撃たないの? AI》

 ベッドの上で眠っているパメラに銃口を向けたAIに対し、人形から再び共有意識に戻ったアケディアは問う。

《今なら苦痛を与えることなく彼女を殺せる。あなたはその引鉄を引くだけでいい》

「……」

《それとも情が移った、とでも言うの? 一度死んだ己を復活させるため、あたしとのリンクを成立させ……その代償に、ほとんどの感情を失ったはずのあなたが》

 頭蓋の内に伝わる信号こえは、淡々と過去を述べ、

「パメラは、本当に殺すべき存在なのかを考えている」

「無意味な思考よ。魔皇リヴァイアサンを倒す。それが今のあなたの存在意義であり絶対的制約。――そして完全に覚醒した魔皇は、この娘のように甘くはない」


 ――ここでパメラを殺さなければ、すべての人類が滅びるのだから。


「それはお前も同じか? 怠惰の魔皇アケディア」

《そうよ。あたしたち悪魔は、人間ヒトを滅ぼすために狂人によって造られた。……もっとも、そいつは結末を見届ける前に拳銃自殺したけどね》

「……」

《これは呪詛カシリ――蟲毒のようなもの。あたしたちは人間ヒトのエネルギーと他の魔皇たちのコアを奪い合い、最後の一柱となるまで殺しあう。そしてすべてのコアを集めたとき呪いは完成し自動発動する。……膨大な魔力を暴発させ、この世のすべてを塩の柱に変えるという馬鹿げた呪いがね》

「その時は――」

《その時は約束どおり、あなたがあたしを殺しなさい。これは互いの利害が一致した契約なのだから》

 アケディアは己の願いを言語化し、

《……喋り過ぎたついでに、もうひとつだけ教えてあげる》

 しばしの間を置き、AIに事実を告げる。

《この子は、あなたの肉親のかたきよ》

「……」


 電子の瞳に映るは、パメラに狙いを定めた赤い照準レティクル――。


「この復讐は、あなたが悪魔あたしに魂を売ってまで望んだこと。……AI、雑念を捨て己の誓いを果たしなさい」

「私は……」

 そして強風によって部屋のカーテンがめくり上がり――

 爆音と共に窓際へと上昇してきた軍用ドローンから、機関砲弾が放たれた。



◇ 第四話 竜と少女 ◇


                                    了

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