Scene 2

 パメラわたしには、過去の記憶がない。

    気付けば一人、この街を彷徨っていた。


「……」

 マンションの中庭に設置されたベンチにて。

 小さな植木鉢を膝に抱えたパメラは、一人思いを巡らす。

「アイ……」

 あの日、地上そらから落ちてきた竜……。

 無感情な人形のように見えて、瞳の奥に深い悲しみを宿した竜人。

「わたしは……あなたが好き」

 他の人に話せば、きっと馬鹿にされるだろう。

 だが、この感情をおかしいとは思わない。

 初めて出会った瞬間から、わたしは彼女と共に在りたいと強く望んだ。


 だけど……。


「……」

 触れることで“温もり”が在ることを知った。

 鼓動を聴くことで“命”が在ることも知った。

 だが……彼女の“愛”を知ることはできない。


 これからも、ずっと……。


「これは、わたしの片思い。……決して望んではならない願い」

 引き留めることは……叶わない。

 彼女は間もなく、わたしの前から居なくなる。

 だから笑顔で「さよなら」を言えるための準備をしている。


 でも、本当のわたしは――。


「花が……お好きなのですか?」

 躊躇いながらも声をかけてきた銀髪の少女――

 白いドレス姿の死徒インヴィディアと、その主人マスターであるパメラは視線を交わした。



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