第二編 二律背反
第4話 竜と少女
東京ジオフロント、賃貸マンションの一室にて――。
『続いてのニュースです。先週に続き、何者かによって自由万歳党本部の口座から一千万円が引き落とされた事件について――』
珍妙な人形――怠惰の魔皇アケディアは、テレビの電源スイッチを踏み、
「アイ、ジャガイモの皮はこうやって剥くんだよ」
「成程。理解した」
キッチンにて料理を行っているパメラとAIに大きな溜息をつく。
「あたしたち、何をやっているのかしら……」
神奈川のお化けクラゲ――魔皇リヴァイアサンを倒す。
だが、現在は当初の目的から大きく外れ、人間の少女と一緒に生活している。
「いや……最大の問題点はそこではない」
憂鬱となったアケディアは独白を続けようとしたが、
(……アケディア)
《どうしたの? AI?》
(なぜ彼女は、私の
「また!? こ、このエロガキ!」
風呂場にて――。
(アケディア……)
《……なに?》
「なぜ彼女は私の――」
「このエロガキぃぃぃっ!!!」
風呂上り後、リビングにて――。
(アケディア……)
「ああ~~、イライラするぅ~~~っ!」
そんな状況が連日続き……。
「……AI、実家に帰りましょう」
「何処にだ?」
敷金・礼金・数か月分の家賃一括払いを条件に不動産屋を納得させ、セキュリティが万全な高層マンションに越してきたばかりだというのに。
「もう限界だわ……。あの子と一緒に居ると、あたしの精神が病む」
「パメラが私に行っているマッサージが原因か?」
「あんなのマッサージじゃないでしょ!? ――てか、あなたの常識もどうなってんの!?」
話の通じぬ宿主に対し、アケディアはテーブルの上を転がり周り、
「あなたは貞操を狙われているのよ……あのエロガキに」
「貞操……」
しばしAIは思考し――。
「生物分類上、私と彼女は“同性”のはずだが?」
「その性別を越えた関係になることを危うんでいるのよ! あなたの修復作業に関しても、あれってもう修復じゃなく、セック……」
「アケディアさん、おやすみなさい」
魔皇の口元を押さえたパメラは、段ボール箱の中へと押し込み封をし、
「アイ……わたしたちも休もうか」
「ああ」
ベッドに入った二人は、互いの胸にあるポートに有線ケーブルを挿し、ナノマシンを使った治療を行う。
そして幸せそうな表情のパメラに抱きしめられる中、
「パメラ」
「ん?」
「貴女のおかげで、私の竜核はほとんど復元された。あとは自己修復のみで――」
「もう少し……」
AIの言葉を遮ったパメラは、
「もう少しで……ぜんぶ終わるから……」
「……」
東京ジオフロントで出会った少女との別れの日は、刻一刻と近付いていた。
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