Scene 3

 奈落の底に響き渡るは、轟音。


「ルオオオォォォ――ッ!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、悪鬼と悪魔は双輪ふたわを描き、互いを食らいあう双頭の蛇であるかのように技を繰り出していたが、

「ククッ、どうした直人? 随分と太刀捌きが鈍いではないか?」

「てめぇ……くそ……!」

 その一方、エウリュアレーと対峙した直人は苦戦を強いられていた。

「畜生、なんだよこれ……!」


 ――鉛の水底に引きずり込まれたかのように、身体が重い……!


 否、直人だけではない。

 気付けば飛鳥も、百鬼衆たちも動きに精彩を欠き劣勢となっている。

「まさか……あの死徒の能力か!?」

 斬り刻まれはじめた直人は、魔力の発生源に気付き、

「我が“邪眼バジリスク”を至近で浴びながら、よくぞここまで動けたものだ」

「グ、グルル……!」

 血だるまとなった斎。

 すでに右腕、左脚は折られ、満身創痍となりながらも唸り、

「だが、それ以前に覚悟の方が鈍ってしまったようだな」

 鋼鉄の腕をゆらと上げ、虚空にの星辰を描いたアンドラスは、

「小さな町道場で組み手を交わしていた頃の――懐かしく、愛しき妻の顔に」

 刹那、フラッシュバックする斎の記憶。


 ―― 鞍馬流体術裏奥義、“鬼哭啾啾きこくしゅうしゅう” ――。


 漆黒の雷に包まれ加速したアンドラスは、続けざまに放った掌底打ちにて、対象の胸郭と内臓器官を破壊。

「親父――かは……ッ!」

 一瞬の隙をみせた直人は袈裟斬りにされ、

「な、直人――」

 石化光線を受けた飛鳥もまた、手刀によって心臓を貫かれる。

「お―――! おおアアアア!」

 そして慟哭の叫びが木霊す中、気力が尽きた斎は人の姿へと戻り、

「さぞや無念であろう。口惜しかろう。……なれど悲しむことはない。お前たちの体は、未来永劫に我らの血肉となるのだから」

 アンドラスは食虫植物の形状へと変化し、

「お前も喰ってやるぞ、斎」

 冷たい地下世界に、哀しき男の断末魔が鳴り響いた。

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