第3話 大阪ジオフロント攻防戦

 同刻、大阪ジオフロント――。


『こちら第三守備隊! 現在、L4ブロックより侵入した機人たちに攻撃を受けている!』

 巨大な地下空間に、無数の銃声と砲撃音が鳴り響くさなか、

『敵の攻勢は苛烈であり戦力は膨大! 至急来援を乞う! 至急――』

 人類連合軍の兵士たちは、住民たちが避難した最終区画の死守を試みるが、

「熱い熱い熱ィッ! ひあァァ――ッ!」

 炎上する機銃手ガンナーは戦車のハッチから転げ落ち、天蓋に張り付いた異形を認識した随伴兵たちは、二十ミリ機関砲を浴び挽肉ミンチへと変わってゆく。

「き、機人……一型レベル1だ!」

 ぶらりと足元まで垂れ下がった両腕。

 猫背の前傾姿勢と、白いホッケーマスクのような面頬。

 アスファルトを陥没させ着地した一型たちは、グレネード弾が入り混じる猛烈な火線を突破し、手股に形成した三本の刃で兵士たちを斬殺。

 紅蓮の業火を背景に、戦意を失った少年兵を血色の機眼が捉えるが、

「え?」

 雷鳴のごとき轟音とともに、鋼の怪物は粉砕され、

九頭竜くずりゅう大佐……」

 死を覚悟していた少年は、隻眼の男の名をつぶやく。

「諦めるな、我々はまだ敗けていない」

 無数の古傷が顔に刻まれた、筋骨隆々の壮年男性。

「大佐だ……大佐が来てくれた」

「百鬼衆が、大阪百鬼衆が援軍に駆けつけてくれたぞ!」

 人類連合の兵士たちは、白い般若面を被った百鬼衆たちの到着にどよめき、

「おーおー。飛鳥あすか、俺らって人気者じゃね?」

「無駄口を叩いている暇はないぞ、直人なおと

 ライダースーツ姿の二十代の若者と、狐妖こようの面を装着した黒髪の女性は、迫り来る一型の群れの前に立つ。

「ああ、違ぇねェ。――今は何より、このくそったれなクズ鉄どもを片付けるのが先だ!」

 そして直人たちの姿は一瞬にして搔き消え――

 またたく間に鉄屑と変わった機人たちに、兵士たちは歓声を上げ、

「勝てるぞ、押し返せッ!」

 勢いづいた彼らは、我先に軍靴を踏み鳴らすが、

「な!?」

 臓物を撒き散らかし床へと転げ落ちた百鬼衆の姿に。

「儚き夢は見れたか? ――虫ケラども」

 山羊頭に四つ腕の二型レベル2たちを率い現れた、二体の蛇女の姿に瞠目する。

「エウリュアレーにステンノー……。大阪攻略の指揮官である四型レベル4さまのおでましか」

 黒太刀を構えた直人は、死神の大鎌をたずさえし怪物たちにうそぶき、

「貴様らとは幾度となく刃を交えてきたが、それも今日で終わりにしてくれよう」

 まなこを細めた飛鳥は、槍の穂先を因縁の敵へと向ける。


 されど蛇女たちは肩を揺らし、


「はっは……実におめでたい奴らよ」

「いまだ夢の中を彷徨っていたとは、のぅ?」

 二型の群れは、まるで道を譲るかのように左右へと割れ、

「控えろ、下郎ども」

「七十二柱の魔将ケイオス、天魔アンドラスさまの御前なるぞ」

 大鎌を下ろした蛇女たちは、凄惨なる笑みを浮かべる。

 そして大階段から降りてきた人型の怪物の姿に、

死徒ドゥーム・スレイヤー……!」

 真紅の鴉面と外殻甲冑を装甲した“地獄の騎士”の登場に、直人たちは戦慄し、

なぎさ……」

 九頭竜大佐――いつきは、悪魔へと変わり果てた妻を悲しげに見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る