Scene 5

天羽貞宗あもうさだむねと申しやす」

 派手な柄シャツの上に、黒いスーツを乱雑に重ねた男。

「うちの組織の、一昔前は半グレだの言われていた連中なんですが……嬢ちゃんを追っていた三人とも、グッチャグチャの遺体で見つかりやしてね。こいつらを殺ったのは誰かってことで調べているんですよ」

「……」

 時代錯誤な中年男は、視線を逸らさぬAIに口の端を上げ、

「世間から見ればクズ虫。社会貢献どころか、社会に迷惑をかけることで生活していた連中です。……が、うちのボスはそう考えてはいない。身内が殺られたってことで、自身の顔に泥が塗られたと思っている」

 そして歩を前へと踏み出し、

「いわゆる“落とし前”をつけさせるために来た、ってやつです。無論、嬢ちゃんにそんな芸当が出来るわけがない。だとしたら――」

《AI、竜核が損傷している以上、現在のあなたの戦闘力は並の人間と変わらない。くれぐれもトラブルは……》


 刹那、斬撃音が路地裏の空気を震わせ、


「アイ!?」

 青ざめたパメラの叫びが響く中、

「首を落とした。――と確信したのですが、こいつぁ驚いた」

 右腕を刃に変化させた天羽の双眸は、みるみると血色に変わり、

「心眼だの第六感シックスセンスだの喩えるのは容易い。が、今の間合いと剣速、達人でも躱せはしない。……あねさん、ひょっとしてあたしの行動を事前に予測し、上体を逸らしました?」

《サイボーグ化した人間ではない。――こいつ、悪魔の遺伝子を!》

「では、これならどうです?」

 両手両足を異形と化し――

 アスファルトを陥没させ、餓狼の突進を繰り出そうとした天羽は、

「……嬢ちゃん、何の真似です?」

 AIを庇うかのように両手を広げたパメラに、

「何をしている、天羽あもう?」

 現れた軍服姿の――八坂月夜の姿に苦笑する。


 そして膝から力の抜けたパメラをAIが支える中、


「やれやれ、水入りとなりましたか」

 人型へと戻った天羽は踵を返し、

「かつては大阪“百鬼衆ひゃっきしゅう”筆頭だった男が、いまでは人身売買組織の片棒担ぎか。よくもまあ、ここまで落ちぶれたものね」

「カカッ、こいつァ手厳しい」

 横を通り過ぎようとした彼の耳朶に、月夜は皮肉をぶつけ、

「貴女たち大変だったわね……って、もういねーし!」

 一人現場に取り残された彼女は、大きなため息をつく。

「……熱量反応を追ってみれば厄介ごとに巻き込まれるし、こんなピンぼけした写真だけで、どうやって竜を探せばいいのよ」

 愚痴をこぼした月夜は、改めて写真を注視し、

「さっきの姉の方、背丈は竜と同じくらいだったけど……まさか、ね」

 あり得ぬ想像に苦笑する中、通信ブレスレットから呼び出し音が鳴り、

「こちら月夜。……何かあったのか?」

 もたらされた凶報に。

「大阪が!?」

 膠着状態だった西の戦況が一変した事態に肌を粟立たせた。



◇ 第二話 東京ジオフロント ◇


                                    了

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