Scene 3

 東京ジオフロント――。

 七の魔皇が一領、“暴食のベルゼブブ”が世界に出現した際、光の柱と共に消滅した東京の爆心地中央に建造された都市。

 日本政府が崩壊して以来、この地下都市は“人類連合軍”の管理下に置かれており、各国の難民の受け入れを行いつつ、半ば軍事拠点と化している。


 その一角にある軍の作戦本部にて、


八坂月夜やさかつくよ中尉、ただいま到着しました!」

 長髪を一つに束ねた齢十七の月夜は敬礼を行い、

「よく来てくれた中尉。まずは椅子にかけたまえ」

 元自衛官・統合幕僚長だった壮年の司令官は話を進める。

「貴官も知ってのとおり、我が日本は神奈川のリヴァイアサン、そして西の“餓鬼魂ソウル・イーター”によって脅威に晒されている」

「はい」

「現状、日本で都市機能を保っているのは、この東京と大阪ジオフロントだけだ。そして地上を徘徊する“機人キジン”たちを駆逐する戦力は我々になく、海外からの軍事支援を受けられる可能性も無い」

 過酷なる現状を知る月夜は沈黙し、

「だが……一筋の光明が、この地下世界に差し込んできた」

 落とされた照明の中、正面スクリーンに映し出された映像に、

「これは……」

ドラゴンだ」

 尋常ならざる速度で炎のアスファルトを駆ける、紅のコートをまとった少女。

「ドラゴン? ……あの究極の生体兵器と呼ばれていた?」

 対悪魔用決戦兵器として、人類が総力をあげ開発した化物ケモノ

「しかしドラゴン・シリーズは、数年前の戦いですべて破壊されたはずです」

「だが、最後の一頭が生き延びていた。しかもこの竜はオリジン――“原初の竜”の心臓を引き継いだ特別な存在」

 月夜の疑問に司令官は即答し、

「君のチームに与えられる任務は、東京ジオフロントに侵入した竜を撃破し、その遺体とコアを回収することだ」

「共闘交渉を行うのではなく、撃破……でありますか?」

「そうだ。この竜の精神は“怠惰の魔皇”によって乗っ取られており、非常に危険な存在となっている。君らでなければ――竜と同じく、肉体を対悪魔用に強化された“夜叉やしゃ”でなくば討伐はかなうまい」

「……」

 夜叉――。

 その名称に、月夜は微かに表情をかげらせ、

「必要なのは制御不能となった竜ではなく、オリジンの心臓。――これさえ回収すれば新たな戦力を、そしてあの機体を動かすことができる」

「あの機体?」

 うっかりと口を滑らせた司令官は咳払いし、

「とにかくだ。貴官の双肩に東京ジオフロントの運命はかかっている。なんとしてもミッションを成功させてくれ」

「はっ! 必ずやご期待に応えてみせます!」

 立ち上がり敬礼を行った月夜の運命は、大きく変わろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る