Scene 2

人間ヒト……」

 ブランケットに覆われ、全裸でベッドに横たわっていたAIは、瑠璃色の瞳を慌てて遠ざけた少女につぶやき、

「あ、あの……」

 黄金色こがねいろの長髪の――同じく全裸の少女は、

「ち、違うの。――これは違うの!」

 気恥ずかしさに顔をあからめ、訳のわからぬ弁明をはじめる。

 そんな彼女に対し、

「対象の分析を開始」

 電子の光を浮かべたAIの瞳は、即座に自動走査オート・スキャンをはじめ、

「推定年齢は十四歳前後。固有名称は不明」

 視覚内に表示された情報を早口で述べていく。

「え、え?」

「身体、およびブランケット内に武装は確認できず。右手首にブレスレットが装着されているが非殺傷物であり、脅威ではないと判断」

 そしてスキャンを終えたAIは、

「人間の子よ。――あなたの所属組織、そして状況説明を要求する」

 何の動揺も示さず、真顔のまま問い、

「……」

 石像のように硬直した少女の唇は、開いたまま動かず、


 …………悪手だったか?


(アケディア、サポートを頼む)

 コミュニケーション能力に欠けるAIは、相方に協力を求めるが、

(応答がない?)

「う、動かないでください……あなたを治療している途中……なので」

「治療?」

 上腕部を小さな手で押さえられ、己と少女を繋ぐプラグコードに気づく。

「これは……」

「信じられないことなのだけど……その子が自身の心臓とあなたを繋げ、死徒に破壊されたはずの“竜核”を修復しているのよ」

 そして信号ではないアケディアの声が届き、

「ちょっと……何か反応しなさいよ」

「お前の本体、、を見るのは初めてだが……ずいぶんと個性的な姿だな?」

 紫色の長方形の体に、耳か角なのか不明な二対の物体が付着した人形。

「~~っ! あなたが撃破され、近場で憑依できる“依り代”がこれしかなかったのよ! そんな鉄面皮で「個性的な姿だな」と言われても、こっちが困るわ!」

「……反応しろと言ったのは、お前なのだが」

 怒涛の非難を繰り返すOSを無視し、少女に振り返ったAIは、

「私の名はAI……あなたの助力に感謝する」

 淡々と、形式的な謝辞を述べ、

「パメラ……と申します」

 応じた少女は、恥ずかし気に微笑み返した。

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