境内は山頂にありますから、頭上には空が見渡せます。

あいにく雲がかかって月明りさえありません。

星のひとつも見えないのです。

雨が降るのかもしれません。

夜の山の空気は冷たく、キンとした高い波長の霊気をはらんでいます。

そんななか、私の懐中電灯だけが唯一の光なのです。

わずかな光ではありますが、真の暗闇の中で、それは皓々と明るく、おそろしいほど強烈に感じられます。

ここに神があるならば、隠れる場所はありません。

私の光を、神に見られている……そんな感覚がありました。

参拝の核心を前に、畏敬のあまりひれ伏したくなる思いを抑えて、私は私の木を探すべく辺りを見渡しました。


境内には木は多いのですが、願いの強い人間であれば、自分のための一本を見つけることができるといいます。

逆に見つけられなかったり、間違って選んでしまったら、その願いは叶わないのです。

私は必死でした。

簡単なことではありません。

けれど、なんとしてでも見つけなければなりません。


どれが私の木なのかを、一本、一本、手で触れて、確かめながら探すのです。

境内の中の木から木へ。

飛んだり、跳ねたり、回ったり。

木々とダンスしているみたいにです。

そのたびに頭に付けた明かりも踊って、闇の中の景色が瞬間照らされます。

濃厚な闇の世界に揺らぎます。

ときどき樹上に暮らすリスかなにかが驚いて闇の中に姿を消したりします。


そうしていると、なにかとなにかが混ざり合い、おそらく神と呼ぶべきものの、かすかな気配がするのです。

曖昧な気配のなかで木々はやがてハッキリと実体を持って私に語りかけてきます。


おまえはいったい何者か。

おまえの願いは何なのか、と。


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