私は今は東京で暮らしていますが、もともとの地元はこの辺りです。

実はここにどんな神が祀られているのか、正確なところは知りません。

一般に公表されているところによると、町にある某神社の分社ということになっているようです。その本宮とされる神社には天皇系の神が祀られているのですが、言い伝えでは、山頂にあるこちらの神社の歴史は、天皇系の神々の生まれた年よりもずっとずっと古いのです。

つまり。

山頂のお社に祀られているのは、公にされているものとは違う。少なくともそれだけは言えましょう。


名前を隠され、顔もない、古えの神なのですが、地元では霊験あらたかな神として永く深く信仰されてきました。

正確には畏れられ、禁忌とされてきたのです。

すべての理を覆す強大な力を待ち、願いとして叶わざるはなし。

すべての人、すべての神に見放された人が、最後に行きつくところ。

どんな願いも聞き届けてくれる代わりに、その見返りも高いものを要求される、みだりに願い事をしてはいけない神として。

あまりにも恐ろしく、あまりにも強大なので、口に出してはいけない神として、地元の人の間でだけ秘密に信仰されてきました。

そして、この山頂のお社はそのための禁断の祈祷地なのです。


山の頂にあるお社の祠は小さく、境内も狭いものです。

けれど神の力というものは、その入れ物の大小や豪華さに比例するとは限りません。


このお社での参拝の作法をこっそり教えてくれたのは、ひとまわり上の従姉でした。

おそらく従姉も秘かに参拝した経験があったのでしょう。

女ですから。

そんな気がします。


従姉はもうこの世にはいませんけれど……。

教えてもらったことは今でもちゃんと覚えています。


私は祠の前でぬかづきました。

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