闇。


闇が私の足を早くするのです。


痛みも疲れも感じません。

もっとずっと私の心は痛かったからです。


たったひとりの真っ暗な山道。

そんなものより私の心は暗く孤独なのです。


痛みこそが私。


私は暗闇そのものです。


そうです。

それに比べたら。



私はほとんど走るようにして山道を行きました。

なんでもできます。

どんなことでも私はやります。



彼が歩いているのを見たのです。

私の知らない女と、ふたりきりで。

ふたりは楽しそうに笑っていました。

赤信号で立ち止まったとき、何かを喋りながら、彼の左手が、女の髪に触れたのを、私は見ました。

女は彼を見つめていました。


私は思いました。

ああ、抹殺してしまおう。

あの目を。

この世から葬り去ろう。


あの時。

女の目には彼が映っていたはずです。

私の知らない、その瞬間の彼を閉じ込めていたはずです。



そんなこと、許せますか?



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