第3話 反撃は慎重に

『ヒノメ班に何もさせないまま、オトノちゃんの三連続撃破さんタテチルぅー! けっして、この声援が人気によるものだけではないという実力を証明しましたァー!』


 クロワの白熱した実況と歓声が聴覚を満たし、ヒノメは自身が生命花の根元で再生リスポーンしていることを知覚した。


 ヒノメの両隣には再生したムイとミズクが佇んでいる。二人ともどのように撃破されたか分からず、困惑した面持ちをしていた。


 いったんカレギ班と離れて落ち着きを取り戻したヒノメは口を開く。


「ねえ、オトノの攻撃が分かった?」


「うーうん。何も見えなかった」


「ミズもムイぴょんに同じくです」


 三人は顔を見合わせていたが、そこへクロワの声が届く。


『カレギ班が前進を開始。オトノちゃんに合わせての牛歩ではありますが、着実にヒノメ班の陣地へと近づいていきます!』


 このまま立ち尽くしているわけにもいかず、ヒノメたちは重い足を踏み出した。オトノの攻撃を解明しないと勝負にならないものの、観察する間もなく撃破されてしまったため考える余地すらなかった。


 そこへ名物実況のクロワによる観客への解説が披露される。


『オトノちゃんの加護である、〈なけなしの勇気こそ不変であれ〉の能力は単純明快。どんな攻撃も受け付けない硬い甲冑、そして短距離の超高速移動、それらによって実現されるのがオトノちゃんの攻撃方法、ただの体当たり・・・・・・・なのです!』


「は?」


 クロワの実況でオトノの能力が判明したが、その呆気なさにヒノメの両目が点になる。


『体当たりと言っても侮るなかれ! その威力はヒノメ班の惨状をご覧になれば伝わるでしょう! 物理を極めてゴリ押しすることこそ最強を体現するのが、オトノちゃん。オトノ・ナルコ・〈ブルニア〉―!』


 クロワの声に合わせて映像花スクリーンにオトノが映し出される。両手を上げて愛嬌を振りまくオトノの姿を見て、男性客から一際高い声援が上がった。


 オトノが悪い人間ではないことは知っているが、なぜかヒノメは苦々しい気持ちを禁じえない。横からはミズクの舌打ちが聞こえた。


「オトノさんて凄いねー」


「ムイちゃんさ、感心してる場合じゃないでしょ。オトノを何とかしないと勝ち目が無いんだから、ちゃんと考えないと」


「順位が遥かに上なので、勝ち目が無いのは元からです」


「ミズクちゃんは、いっつもそれ!」


 ムイとミズクのおかげで、やっとヒノメにも普段の調子が戻ってきた。


「でも、ムイちゃんの百花繚乱が決まればオトノなんて敵じゃないのに。どうして今日は使えないの?」


「わたしに言われても困るよー」


「ムイちゃんにしか言えないと思うんだけど」


 背中を丸めて歩くムイは困ったような顔、つまりはいつもの表情でヒノメを見返す。言葉に詰まるムイの代わりに応じるのはミズクだ。


「ムイぴょんの百花繚乱は、本当に誰かを守りたいとか、勝ちたいとかいう気分が高まらないと発現しない、精神依存条件だと思います。最初のっけから発現はできないです」


「そんなこと知っているなら、教えてくれたらいいのに!」


「ミズも理解したのはさっきなので、非難されるいわれはないです。ムイぴょんは、百花繚乱を使える契機が自分で分からないですか?」


「わたしは百花繚乱を使ったこと、あんまり無いからー……」


 他人事のように言うムイを見て、ヒノメはそれ以上の追及を諦める。とにかく、前衛防御型フロントガードのオトノを突破できないとカレギたちを攻撃できないため、対策を練る必要があるのだ。


「オトノの体当たりを防ぐにはムイちゃんが頼りなんだから、しっかりしてもらわないとね」


「自信無いなー……」


 あまり実りの無い会話をしていると、遠目にカレギ班の影が見え始める。気合を込めてヒノメが長刀を握り直していると、ミズクが岩陰に隠れながら進んでいく。


「どうしたのミズクちゃん。そんな怖がっちゃってさ」


ボケブリっ子オトノと真っ向から戦う愚は避けるべきです。ここは奇襲を仕掛けて潰すべきです」


「ミズクちゃんてばイケナイ子ねー。やっちまうか!」


「あー、ミズクの将来が心配だわー……」


 意気揚々とヒノメとミズクが進む後ろをムイが追う。


 カレギ班の視界に入らない場所を選んで進み、相手を射程範囲に捉えたミズクが立ち止まった。ミズクは遮蔽物に隠れつつ、周りに浮遊させている本を飛ばして空中に整列させる。


 宙で一列に並んだ六冊の本が紫色に発光。その光輝が弾丸となって射出され、オトノの全身に降り注いだ。紫の光条に晒されたオトノは立ち止まり、片手で頭部を庇っている。


 だが、絶え間なく本から連射される光条は甲冑に命中してもその表面で弾かれ、紫の飛沫となって消えていくだけだった。


「このわたくしには、このくらいでは効きませんよー!」


 気炎を上げるオトノは痛痒を感じないように歩み出した。攻撃が通じていなくても、ミズクがオトノの気を引いていることを利用するべきだ。ヒノメはムイを伴って岩陰から飛び出す。


 砂地を蹴ってヒノメはカレギめがけて疾走。カレギもヒノメの接近に気付いたはずだが、顔を向けているだけで腕組みしたまま動こうとしない。

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