第31話 負けない

 詳しいことは後日――ということで、俺たちはメイド喫茶から去った。

 それから各所を巡ってデートをした。

 そうして一日が立ち、夕方。


 港で黄昏たそがれる俺と亞里栖。

 茜色に染まった空は、炎のように広がって焚火を見ているように落ち着く。


「今日は楽しんだな。メイド喫茶やゲーセン、カラオケ。ショッピングも」

「うん。いろいろ買い物もできた。ありがとね、両ちゃん」


 亞里栖の横顔が美少女すぎてまぶしく映った。なんて可憐……。この姿をぜひ写真に収めたいと思ってしまった。


 俺は自然とスマホに手を伸ばし、カメラを向けていた。



「……亞里栖、そのまま」

「えっ、なに? まさかこんなところでハメ撮り!?」

「なわけねぇ~!」


 てか、女子高生がハメ撮りとか言うな! 生々しいな!


「じゃあ、何?」

「写真を撮りたいだけだ。ほら、亞里栖って……可愛いからさ」

「か、可愛い……そか」


 亞里栖は顔を真っ赤にして照れていた。

 今のうちに写真を――そう思った時だった。



「よう、相良さん。こんなところにいたとはねェ……!」



 背後から声がして、振り向くとそこにはガラの悪い連中が三人いた。……こ、こいつらどこかで見覚えがある。


 ま、まさか……!


 そうだ。以前実家に現れた親父の借金取りか!


 あの時、俺が勝手に連帯保証人にさせられていて一千万円の借金を負ったのだ。その肩代わりを瀬奈さんがしてくれた……はずだ。


 少なくとも闇金に対しては、とっくに返済済みだぞ。



「な、なんですか」

「そりゃ決まっているだろ。金を返して貰いに来たんだよ」


「なッ……! 一千万なら完済しているでしょう!」



 俺がそう言い返すと、男はブチギレながらもにらんできた。



「そっちの話は終わっているが、別の借金があるんだよ」



「「なッ!?」」



 俺も亞里栖も驚いた。

 ま、まさか……親父のヤツ、まだ借金をしていたのか……!?



「お前の親父、相良 元は仮釈放された。その後、我々の元を訪ねてきたのだよ。そして、お前の名義を連帯保証人にした」


「……なん……だと……」


 それを聞き、俺は頭痛がした。めまいもした。……クソ親父の野郎、仮釈放されていたのか。だから、新たに借金をしたのか!


 亞里栖も同様の反応で呆れていた。



「お義父さん……なにしてんの……」

「すまん、亞里栖。完全に油断していた」

「ううん、両ちゃんが悪いわけじゃないよ。全部、お義父さんが悪いの」

「ありがとう」


 幸い亞里栖は俺の味方。

 だが、借金取りはそうではない。

 この状況をどう切り抜けたものか。

 瀬奈さんにこれ以上は迷惑掛けられないし……。



「相良さんよォ。借金は三百万円だ。一括で返してもらおうか!」

「まってくれ。俺はもう親父と縁を切った。関係ない」

「関係ないィ!? ふざけんじゃねぇッ!!」


 キレて柵を激しく蹴る男。

 完全に脅してきているな。

 いっそ警察に通報してやろうか。


 いや、亞里栖がすでにスマホを取り出していた。俺の背後で通報をしようとしていた。……これに賭けるか。そうだな、俺が時間を稼ぐ。


 今はこの状況から抜け出すことだけに集中する。



「本人から取り立ててくれ」

「そうはいかん。連帯保証人である以上、お前も無関係ではない。そこの彼女の体を売ってでも金を返してもらうぞ」


 コイツ、なんてことを言いやがる!

 亞里栖は高校生なんだぞ。

 立ちんぼともやっと縁が切れ、今は普通の生活に戻れているんだ。また、あの場所へ行かせはしない。これからは永倉のメイド喫茶で働くんだ。その方がよっぽど健全だからな……!



「断る」

「……なに? もう一度言ってみろ」


「断ると言った! もう借金の返済なんてごめんだ! てか、違法金利の闇金は、そもそも返済しなくてもいいらしいじゃねえか! 最高裁判所の判例でもあるってよ!!」



 あれから俺は闇金について調べた。

 その結果、違法金利の闇金については返済義務がないことが判明したのだ。なので、本当なら一千万円を返す必要もなかったのだ。

 あの時は知識がなかったから仕方なかったが、今は違う。



「このォ!! やっちまえ!!」



 三人の男達がブチギレって俺に襲い掛かってくる。


 クソ、ここまでか……!

 だけど俺は負けるつもりはない……!


 生きて亞里栖を家へ帰るんだ!

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