第30話 またもや拾われた義妹

 メイド喫茶を出た。

 オムライスとろとろで美味かったなぁ……。

 少々値段はするものの、味は最高だ。それにメイドさんを愛でられる。最高の環境だ。

 亞里栖もなんだかんだ楽しんでいた。



「美味かったなぁ」

「意外としっかりしてるんだね。ていうか『世界がヤバイ!!』ってなによ。どういう意味……?」


 オムライスに刻まれた文字が最後まで理解できなかった亞里栖。そりゃそうだ。その文字は選ばれし者にしか分からない暗号なのだからな!


 その意味は自分で調べてもらうとして、次の場所へ向かおうと足を進めようとした――その時だった。


 見知った顔が前から現れ、俺の名前を呼んだ。



「よう、両」

「……な、永倉。お前、本当に神出鬼没だな」

「なにを言う。このメイド喫茶に用があるんだ」

「ん? お前もこの店の常連か?」

「なわけねー」

「じゃ、なんだよ」


「この店のオーナーだけど」



「「えッ!?」」



 俺も亞里栖も意外な事実に変な声を出してしまった。……な、なんだって!? この店、永倉がオーナーなのかよ。

 つまりあれか、経営しているってことなのか!?



「まさか両と亞里栖ちゃんが利用しているとは思わなかったな。さすがの俺も驚いたよ」


 と、永倉は目を白黒させていた。

 いやいや、こっちの方がビックリしているってーの。


「会社をいくつか持っているとは聞いていたが、まさかメイド喫茶とはな」

「一応、趣味でね。ガチメイドの育成がしたかったんだ」

「なんだそりゃ」

「てか、亞里栖ちゃんをメイドに雇いたいな」


 急に永倉は、亞里栖を見つめた。……おい!

 だが、本人はまんざらでもない様子。……なんだと!


「……いいかも」

「亞里栖!?」

「両ちゃん、わたし永倉さんのメイド喫茶で働こうかな! 立ちんぼするより、よっぽど健全だと思うし!」

「そ、そりゃそうだけど……」


 でもなぁ。男が寄ってくることには違いないからな。変な輩が亞里栖を狙ってくるかも。……想像しただけで心配すぎるな。

 亞里栖ほどの可愛い美少女はすぐに声を掛けられるだろうし、そこにメイド属性が付与されれば最強だ。ナンパなんて死ぬほどされるに違いない。

 そんな光景を見たら憤死する! 俺が!


「だめ~?」

「……他はダメなのか?」

「あ。両ちゃん、もしかして心配してるのー?」


 ニヤリと笑い、からかってくる亞里栖。く、くそう……見破られていたか。


「当たり前だ。変な男が寄ってくるかもしれないんだぞ」

「大丈夫だよ。仕事だもん」

「むぅ……」


 亞里栖は前から自分の力で稼ぎたいと言っている。俺が支援しているが、それでも足りないと言うほどだ。もっと増額してもいいのだが……あんまり、あげ過ぎてもなぁと思っていた。

 しかし、労働を知るという意味では良い経験になるかもしれない。

 天秤が俺の中で揺れ動く。



「両、いいんじゃないか」

「え?」

「亞里栖ちゃんは俺がちゃんと見ておいてやるし、それに本人がやりたがっているんだ。気持ちを尊重してやるべきだ」


「永倉、お前は亞里栖が欲しいだけだろ」

「まあな。亞里栖ちゃんがいれば集客できるからな!」


 んなこったろうと思った。

 だが、コイツに貸を作っておくのもありかもしれないな。今後、事業のことでもっと深く関わっていくこともあるだろうし。


 まあいいか。


 定期的に俺も様子を見に来ればいい。



「分かった。亞里栖がいいなら、いいよ」


「「本当!?」」



 二人して喜んでいた。

 亞里栖も永倉も俺の返事待ちだったわけだ。



「両ちゃん、本当にいいんだね?」

「好きにしろ」

「ありがと!」



 これから亞里栖は、永倉のメイド喫茶で働くことになった。通信制の高校にも通いながら――だけどな。でも、時間に余裕があるわけだし問題はないだろう。


 俺も全力でサポートするし。

 今回は永倉に拾われたな。

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