第32話 奇跡の代償

 万事休す。

 ヤバイ、殺される……!  いや、こんなところで終わってたまるかッ!


 亞里栖の手を握り、俺は逃げ出した。



「逃げやがったぞ!」

「待ちやがれ!!」

「捕まえてぶっ潰せ!」



 俺たちを追いかけてくる男達。

 やっぱり逃がしてはくれないか。



「りょ、両ちゃん……!」

「全力で走れ、亞里栖。今は逃げるしかない」


「で、でも……息が」


「体力が続く限り走れ。もしダメなら俺がおんぶしてやる」

「そ、それは……うん、がんばる」



 倉庫を抜け、街の方を目指す。

 だが、男達も全力で向かってくる。このままでは追い付かれる……。

 なにか良い方法はないのか?

 走りながら考えるが何も浮かばない。


 このままでは追い付かれて終わる。


 なにか……なにかないのか!



 道路に出るが、誰もいない。車も自転車すら通っていない。こんな港では人なんてほとんどいないのか……。

 頼れる人もいない。警察もいつ到着するか分からに。


 チクショウ……!



 戦うしかないのか。



 亞里栖の体力も限界に近い。

 なら、俺ががんばるしかないよな。



「亞里栖。お前は先に行け」

「え、でも……」


「俺が時間を稼ぐ。だから、誰か呼んできてくれ」


「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫だ。これでも俺は“痛み”には強い」


「……分かった。無茶しないでね」



 心配そうに俺をみつめる亞里栖だが、先に行った。

 それでいい。


 俺はその場で立ち止まり、三人の借金取りを相手にした。



「ほ~? こんなところで俺たちとやり合う気か?」

「相良ァ! ぶっ殺してやるよ」

「覚悟しやがれ!!」



 殺意むき出しかよ。おっかねぇ……。正直、殺される気配しかない。俺は下手すりゃここでバラされるかもしれない。

 だけど、亞里栖だけは守りたい。その一心だった。


 だから、なんとしてでもここを通すわけにはいかない。



「……やってやらあああああああああ!!」



 敵は武器を持っていない。

 なら、ボコられても耐えるくらいは出来る……!



「死ねや……!」



 ひとりがナイフを取り出した。

 クソッ、凶器ありかよ。ふざけんな!!


 やっぱりというか、なんというか……ヤツ等は武器を持っていた。なんなら、銃を持っているかもしれない。

 だけど取り出さないということは、ナイフだけか?


 いや、もう終わりだ。

 ナイフ相手では俺は勝てない。



「ちくしょおおおおお!!」



 亞里栖……すまん。


 目をつむり、死を覚悟する俺。

 きっと……これで死ぬ。


 そう思った――その時だった。




『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ……!!!』




 なんか鈍い音が耳に響いた。

 なんだ、何が起こった?


 目を開けるとナイフを持っていた男がぶっ飛ばされていた。……え、ええッ!? なんで!?



「ぐはあああああああああああああッ!!」



 地面を転げまわる男。

 いったい、誰があの男を――ん?


 いつの間にか俺の目の前に立つ男がいた。コイツは……まさか。



「待たせたな、両」

「永倉!! なぜ!」


「亞里栖ちゃんから連絡が入ってな。飛んできたのさ」


「亞里栖から!?」



 そうか。さっきの電話は警察ではなく、永倉にしていたのか……! それで駆けつけてくれたわけか。ありがたい!



「コイツ等か。お前から金を毟り取ろうとしている輩」

「そ、そうだ。親父とは縁を切ったのにしつこくて」


「なら、俺が残り二人をぶちのめしてやる」

「!?」



 そう言って永倉は突っ走っていく。

 お、おいおい……マジかよ。


 物凄いスピードで突っ込み、二人目に殴りかかった。



「――ひ、ひぃ!? うぎゃあああああああああ!!」



 見事に右ストレートがクリーンヒット。二人目の男がぶっ飛んでゴミの中へ突っ込んだ。……これであと一人! ていうか、永倉強ぇ! コイツこんな格闘技が出来る男だったんだ。知らなかったぞ。



「く、くそ!」

「諦めろ、闇金の男」


「なら……これならどうだ!!」



 ふところから銃を取り出す三人目の男。やっぱり持っていたのか!!



「……!!」



 さすがの永倉もビビっていた。俺もヤバイと感じ、凍り付いた。だ、だめだ……今度こそおしまいだ。

 永倉が殺され、次に俺も……。


 いや、そんなあっさり人が死んでいいわけがない。


 たかが金だぞ!!


 それに永倉を巻き込んでしまった。これは俺の責任だ。だから……!


 永倉の前に立った。


 そして、直後には銃弾が俺の胸に……!



「がはッ!!」



 物凄い衝撃が胸を伝う。

 し、死んだか……これは。


 地面に倒れる俺。



「両!! ウソだろ!!」

「…………」


「くそおおおおおお!! よくも!!」



 ブチギレる永倉は、隙を見て三人目の男に突進。体を持ち上げてブン投げていた。



「んなああああああ!? うぎゃああああああああああああ!!」



 ああ……これで亞里栖は守れた。


 これで良かったんだ。



「両! 両……!」

「な、永倉……亞里栖のことは頼んだぞ……」


「お前……。ん? まて、両」


 俺の胸ポケットを探る永倉。く、くすぐったい。ていうか、アレ。俺、よく見ると血が出ていない。


 胸ポケットから俺のスマホが出てきた。


 スマホは銃弾を受けていて、画面だけがバキバキに割れていた。



「お、うぉ!?」

「すげえな、両。お前、胸ポケットに入れていたスマホで奇跡的に助かったな」

「俺もビックリだよ」



 そういえば、海外でもあった。

 銃撃されたが、偶然胸ポケットにスマホを入れていて助かったというニュースを。過去に何度も前例があるらしいから、拳銃の弾ならなんとか防げるらしい。


 まさか日本ではじめての例が俺になろうとはな。偶然だったけど。



「助かったな」

「……たまたまだ。それより、永倉。命の恩人だ」

「いいってことさ。俺たち、友達だろ」

「そうだな。ああ、そうだよ」



 ガッチリと握手を交わす。



 これで家へ帰れ――。




「…………がぁ……」



 突然、永倉が倒れた。


 え……。



 よく見ると最初の男が意識を取り戻していた。銃を向け、永倉を撃ったらしい。



 うそ……だろ。

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