第四章 夏の短期留学 夜の誘惑 

第30話 短期留学初日 ステイ先の家族たち

 短期留学が始まった。長時間の飛行機。船。この二つを使って移動をする。カルフォルニア州の海にある人工島は金持ちのブラックさんが出資し、大学や研究機関を作ったことで、ブラックユニバーシティタウンと名付けられたのだそうだ。総合大学が街を作っていると感じてしまうほどの広さを持つ。大学ロビーの広さは本当に凄まじい。誰だってキョロキョロしたくなる。


「ここでステイ先の家族と合流するからね!」


 そう言って女性の引率者が一人ずつ名前を呼び、ステイ先の家族と初めて対面することになる。すぐ呼ばれた私はその家族を見る。夫婦だ。白い髪。皺のある顔。長年共にしているからか、顔立ちが似ているように見える。雰囲気は穏やかでユーモラスを感じさせる。


「あなたがヒカリさんね。マリー・スミスよ」

「ジェームズ・スミスだ。よろしく」

「ひかり井上です。こちらこそよろしくお願いします」


 大学側の人と最終チェックを行い、私はスミス夫婦に付いて行く。四人乗りの赤い車に乗り、街を眺める。アメリカの都市というわけではないため、予想より高いビルの建物は少ない。研究所エリアを抜け、住宅地エリアに入る。四階建てのものが多く、レンガ調や暖かい色のもので並んでいる。


「着いたらもう一人、紹介するからね」


 運転しているジェームズさんの台詞に私は気になった。


「もう一人いるんですか」

「ああ。下宿生だよ。中国の人だったかな。私がまだ会社勤めだった時の酒飲み仲間の娘さん」


 アメリカの住宅は広い。面積が広い分、どれもが広くなる。そのため、他の人もいることぐらい、予想済みである。どういう人なのだろうかと想像していた時、住宅地エリアの中でも戸建てがメインのところに入る。いくつかの家を通って、車が止まった。駐車場があり、プール付きの庭もあり、二階建ての家だ。広いに決まっている。というか実際デカい。


「お腹は空いているかい」

「ええ。空いてますが」


 喋りながら、車から降りる。確か時刻は十二時ごろだ。つまりはランチタイムだ。用意してくれたのだろう。ジェームズさんの口角が上がる。


「歓迎バーベキューをやろう」


 アメリカの定番のようなものが来た。ここでも良い匂いが漂ってくる。


「もう来たんでしょ! さっさと来なさいよ!」


 女性の声が聞こえてきた。


「あらまあ。もう焼いちゃってる。うふふ。あの子はせっかちだから。ひかり。案内するから付いて来て」


 マリーさんは楽しそうに言いながら、案内をしてくれる。家の敷地に入り、寝室にスーツケースを置き、庭に向かう。既にスタンバイ状態だった。アメリカンサイズのバーベキューコンロ。キャンプで使われるようなテーブルと椅子。そしてこの美味しそうな匂い。


「ほい!」

「あ。ありがとう」


 黒髪をひとつに纏めている、身長百七十超えの女性から皿を貰う。ほとんどが肉だった。ひと口サイズにしてくれているが、量がやたらと多い。改めて女性を見る。タンクトップとジーパンという格好だが、スタイルが良いため、様になっている。


「初めまして。ユートンよ。ここの大学の学生として通ってるの。二週間よろしく」

「ひかりです。よろしくお願いします」

「とりあえず食べてよ! 冷めない内にさ!」


 ユートンさんは姉御肌のような人だろう。笑っているところを見て、そう感じた。


「いただきまひゅ」


 いつものように言って、鶏肉を口の中に入れる。熱い肉汁が口の中に広がる。ソースとの絡まり具合が良い。


「私が作った」


 何も言っていないのに、ユートンさんがどや顔で言ってきた。いややっていることは普通に凄い。バーベキューコンロの傍で焼く作業をしているジェームズさんが言う。


「料理上手の子だからね。こういうのも出来るんだよ。あとでマリーとの合作デザートを食べると良い。あれは美味い」


 一緒に作ったものがあるようだ。ユートンさんとスミス夫婦の仲は良好。雰囲気は悪くない。こういうところはガチャだと言う人がいるが、少なくとも私はある程度アタリなのだと思う。出来る限り、仲良くしていきたい。

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