プロローグ第2話 Listen to me complain

 「確かにあそこで出しゃばりすぎたかもだけどさ、私も、私はノンをかばって味方してたわけじゃん?自分的にはいい感じだけど『キモい』って言ってきやがって、それも全員で。なんでなのかな。ノンが黙っちゃうんだけどさ、そんなノンにまでまだあいつらは『やばい』だのなんだの言い続けてさ、マジであり得なくない?楓もそう思わない?」

 

 ……コク。えーと、そう思うよ。


 「彼女がお話をして私は聞くだけ」という会話(?)の形式上、彼女のお話が愚痴っぽくなるのは珍しいことではない。愚痴を聞くのは結構だるいけど、彼女の愚痴は落ち着きがあって冗談のようだから、私は彼女の愚痴は好きだ。


 でも、今日はそうでもない。感情のままに話す彼女の声が聞き取り辛くて、支離滅裂ってる文を解読できなくて、多すぎる指示語と固有名詞によって、ところどころしか話が分からない。ぶっちゃけ、今日のは他の人と同じ、だるい愚痴だ。


「なんであんな奴らと仲良くしてたんだろ?美人に囲まれて高校デビュー成功してたと思ったんだけどな~。けどやっぱあーゆーこという人達とは仲良くできないわ。楓はどう?やっぱ言いすぎだよね?言いすぎというか、現代人としてあんなこと言っちゃいけないよね?」


 ……コク。あー、そうだね。


 この二週間、私が声を出せないと気づいたときと、初めて私にお話しをしようとしてくれて大失敗したとき以外は、常に優しい声色でゆっくり話してくれたのにな。


 彼女のことをよく知らない私は「まぁそんな日もあるか」で納得するしかない。


  彼女のために何かしたい気持ちもある。でもここから動けないし、声が出ないからまともにコミュニケーションのできない(この前自分の名前を教えようとしたら『未開拓カレー?何それ』と言われて口パクの限界を知った。その後、どこかで知ったんだろう、『楓』と呼んでくれるようになった)私にできることはせいぜい、隣で彼女の話に相槌をうって、少しでも気持ちが楽になってくれるように願うだけ。


 「マジでさあぁ、(略 約2分間)楓もそうだよね?だよね⁉」

 

 ……コク。そっすね。


 「そうだよね、やっぱりガツンと言わなくちゃ。私から、今度こそ。ねぇ楓、私の決意、聞いてくれるかな」

 

 お、唐突に話がまとまり始めてきたぞ。そろそろバスが来るからかな。

 よし、今日のお話終わり!彼女には今日中に落ち着きを取り戻してもらって、明日にはまた楽しいお話を持ってきてもらいた

 「『女の子が女の子を好きで何が悪い!』って!言ってやる!」

 

 ……、あの濁流みたいに流れていった愚痴たち、そんなセンシチブな内容だったんですか?

 

 「楓、ありがとう。私が誰にも言えなかったことを聞いてくれて、あなたが”真剣に私の話を聞いてくれた”おかげで、気持ちに区切りがついたよ」


 フグゥ……なんだか良心が痛む。いや、確かに、最初は話を真剣に聞こうとしてはいたけど、後半はちょっと、諦めてたというか、というか、実はちゃんとわかった部分って最初の「昨日ね」だけだったっていうか……フグゥ。


 「今日はごめんね、愚痴ばっかりになちゃって。少し、自分にイライラしてたんだ。ノンがあんなに言われてるのを見て、私は何も言えなかったから。私もノンと同じなのに。まぁでもそれは昨日の話過去の私!心が綺麗クリアな今日の私は、颯爽アジリティと昨日の問題を解決ソリューションし、明日の為に楽しいお話を持ってくるブリングから、震えて待ってろよウェイティング!」

 

 彼女がそう言い終えると同時にバスが来て、彼女はなんか、一度手を大きく振り上げてから勢いよくスマホを鞄に入れて、勢いよくバスに乗り込んでいった。

 

 ……まぁ、彼女が落ち着きを取り戻した(?)のはいいとして。なかなか複雑な問題を抱えていたんだな。人に相談し辛そうな内容だし、きっと多くをため込んでいたんだろう。そのはけ口になれたのなら、私としても良かったかなと思う。


 あれ、でも。そういえば、私は本当にうなずくことしかしなかったな。助言もしてないし、背中を叩いてもいない。ただ、だからこそ、きっと彼女は後悔しない選択をしたのだとも私は思う。だって、彼女が自分で決めた結論だから。きっと、ただ話をするだけ、聞くだけ。これくらいが、私と彼女の正しい距離感なんだろう。


 明日の彼女のお話が楽しみだ。結果がどうであれ、きっと、前向きで楽しいお話を聞かせてくれるだろう。彼女と、ノンという女の子の幸せを願って、震えて待って居ようじゃぁないか。



 「いや~後悔しかないわ。あいつらに嫌われたのはいいとして、クラス全員が私とノンを目の敵にし始めちゃって、話してくれるのノンだけになって、クラスで二人、孤立しちゃった。うーん、こんなはずじゃなかったんだけどな。もっとみんなが手を取り合って、平和的に終わるつもりだったんだけど、ちょっと高まったテンションの中で暴走しすぎたかな。と、いうわけで連日ごめん!反省会に付き合ってください!まず最初に、ノンがまた陰口を言われてたから、私が止めにはいって……」

 

 よく考えたら、昨日の私はフラグでしかなかったな。深いため息をしながら、そんなことを反省した。どうやら今日も、聞きにくい愚痴になりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る