第5話 王都連続通り魔事件1

 道に何か金属が落ちた音の後イツハにつられて後ろを振り向くとそこにはフードで顔をかくした女性がイツハの方を向いたまま立ちつくしていた。


「あなたが通り魔さんですか?」


 そうイツハがフードを被った女性に聞くと女性は我に返り私たちに背を向けて走りだしたと思ったら次の瞬間、その女性はその場で転んで動かなくなってしまった。状況が理解できずにいるとソフィアさんがイツハに尋ねていた。


「イツハくん、説明してもらっても構わないかな?」

「ええっと、彼女とすれ違う際に刃物を刺そうとしてきたためとりあえず刃物を折って彼女に最近騒がれている通り魔かと質問したところ逃げたので転ばして動けない状態にしました。」

「なるほどね。ではどうする?騎士たちを呼ぶかい?」

「ええ、彼女をしっかり拘束したら騎士団に連絡してあとは任せましょう。」

「にしても三人いてわざわざあなたを狙うなんて運がないわね」

「そうですね、二人に危害が及ばなくてよかったです。」


 そう彼は微笑みかけてきた。好きな人にこんな言葉とともに笑いかけてもらえる。その事実がたまらなくうれしい。彼の一挙手一投足にこんなにも感情を動かされてしまう。やっぱり彼の隣にいたい。自らの手で彼を幸せにしたい。とりあえず彼を傷つけようとした女はこちらで処分しておきましょう。まあ実害があったわけではないから2日で許してあげましょう。


「どうかしましたか?もしかしてリリアも通り魔になにかされたのですか?」

「いえ、なにもされてないから心配しなくても大丈夫よ。ありがとう」






 通り魔に襲われた後騎士団に彼女を引き渡して僕たちはすぐに解散した。そして週末には一度実家へ帰り姉様と近況を報告して一晩過ごした。


「週末の二日間で実家に帰っていたの?」

「ええ、姉様から直近の休みに顔を出してほしいとのことだったので。」

「無茶言うわね、いくら主要都市には転移門があるとはいえあれは安くないでしょ」

「次は夏の長期休暇でいいとのことでしたので今回だけならと、それにお金は姉様がご自身で負担されたので」

「それなら文句はいえないけれど」


 そんな話をしているとソフィアさんが教室に入ってくるのが見えた。


「おはよう、先ほどクロエ先輩から言伝を預かってきた。先の通り魔事件について聞きたいことがあるとのことだったので放課後生徒会室に来てくれと。」

「わかりました。」

「話って言われても話せることは騎士団にすでに伝えているつもりだったけど何かあったのかしら。」

「とりあえず放課後行ってみましょう。」

「そうね、まずはちゃんと授業を受けましょ。演習科目もあることだしね。」



 授業の内容は1~2年生は基礎である数学、物理、化学、歴史などを学び3年生になると自分の使う魔術、特性がどのように物理現象に影響しどんな結果をもたらすのかについてなどこれまでの知識をもとに学ぶ。そして演習科目は基礎体力の向上、剣術、魔術の行使、自身の特性の探求など多岐にわたる。一年生の演習科目はというと


「この広大なグラウンドを60分で50周って頭おかしいんじゃないかしら」

「そうだね、というかイツハくんは無属性魔術で身体強化して走っている私たちによくついてくるものだね。」

「そうですね、水と風の魔術と特性を総動員してやっとって感じですね。」

「そう考えると君の特性はすごいね。」

「ですが特性に頼りすぎるといざというときに肝心の肉体が使えないといけないからいつもは逆に負荷をかけていますが。」

「それとマフラーや上着は脱がないのかい?」

「ええ、、、、ちょっと」

「私はもう会話できないわよ、喉が干からびるから」


 一周850mのグラウンドを50周、それを1時間でということは平均約10m毎秒で走らなくてはいけない。これが準備運動でありこれからどんどんきつくなっていくらしい。クラスごとに達成目標は違うらしいが水や風の属性の魔術を使えないものにはきついものがあるかもしれない。


「皆さん全員が10分オーバー以内ですか、素晴らしいですね。成績を見てもこの代は優秀ですね。少し余裕があるようですね、次回の目標設定はどうしましょうか。」


 皆反論できないほど息が上がっている、立っていられないほどに。このあと剣術の基礎練習がありそののちに魔術を扱っていく。冒険者となり力のない者のために己の力をふるう際に一番大切なのは心の成熟。如何に強大な力を持っていても精神的に未熟だと他人どころか自分すら脅威を前に膝まづくことになってしまう。演習科目では肉体的な教育はもちろんだが精神的な教育のほうこそ本懐に思える。


「イツハ君はまだ余裕がありそうですね。」

「はい、自分の属性と特性がこの種目に合っていたということだけです。」

「そうですね、それは間違いない事実ですが無属性の魔術を使えないあなたのみがこうしてまだ立っていることも事実。誇るべきことですよ。」

「先生にそのように言っていただけるのはとても嬉しいです。」

「そう、ですね」


 こちらを探るようにみ視線をおくってくる。しばらく見つめ合っているとリリアがようやく呼吸を整えてこちらに歩いてきた。


「先生、先ほどから随分と長い間イツハと見つめ合っていますが生徒に手をだすのは職業倫理に反していますよ。」

「あら今私は19歳、あなたたちとは5つしか変わらないですよ。」


 リリアの目のハイライトが徐々に消えていっている。


「先生、面白い冗談ですね。一流の戦闘力に加えてユーモアまであると思いませんでした。」

「先生、みんな息も整ってきたようですし剣術に移りませんか。」

「そうですね、皆さん一人一本木刀をもって集まってください。」


 すると先生はリリアのもとに歩み寄ると耳元で何かを囁いていた。





「早く生徒会室へ行きましょ。」

「生徒会が僕たちに何の用なのか早く聞きたいしね。」


 今日のすべての授業が終了し席で帰りの支度をしていると一足先に帰りの支度を終えていたソフィアさんとリリアが話しかけてきた。


「すみません、お待たせしてしまって。」


 僕は急いで荷物をまとめるて席を立った。生徒会室は学び舎とは別館の一つである全5階建て物の最上階に位置している。この別館には生徒会室、部活総会の本部、教員各員の研究室などがある。歩いて10分くらいすると生徒会室に着きソフィアさんが扉をノックした。


「一年ソフィア・フォーサイスです。先の通り魔事件について聞きたいとクロエ先輩に呼ばれましたので参りました。」

「入ってください。」


 そうクロエ先輩の声が聞こえたので扉をあけて入っていった。








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